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新しい料理の形、分子ガストロノミーとは?

YOKO 2021.02.06

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「分子ガストロノミー」という学問を知っていますか?この学問に基づいた料理やそういった料理を扱うレストランが日本にも次々にオープンし、美食家達の間で話題になっています。今回はこの分子ガストロノミーと実際に料理を食べてみた感想をお伝えします!

分子ガストロノミーとは?




分子ガストロノミーとは、調理を科学的な観点から解明する学問分野を指します。食材が変化する仕組みを分子レベルで分析し、調理技術の向上を目指す学問のことをいいます。ガストロノミー(gastronomy)自体の意味は、日本語では美食術、美食学とも訳され、分子美食学とも呼ばれています。

研究分野での分子ガストロノミーの歴史は浅く、1992年のイタリアで始まりました。科学者と料理人が集まり、伝統料理の科学的分析を行う研究会を開いたのが始まりです。当初は研究分野に重点が置かれていたので、主に調理法により食材の変化や食事における感覚などを研究していました。

例えば、料理書によると卵を半熟にするには茹でる時間を○分、固ゆでは○○分と書いてあります。これを分子ガストロノミーでは、温度設定によって卵黄がどのような変化をもたらすかを研究しました。

これにより、一定の温度で好みの半熟卵を大量にいつでもどこでも作ることを可能にしました。よって、茹で時間は問題ではないことが分かります。その他の研究では「青物を茹でるときには、塩を入れないといけない。肉の表面を強火で焼くと肉汁が閉じ込められる。」などの伝統的な常識が実は誤りであったことが解明されています。

このような研究成果を利用して調理をすることを分子調理などと呼ばれています。液体窒素や遠心分離機、注射器、試験管など普通の調理法では考えられない実験室にあるような材料や器具までも用いて分子レベルで調理します。

そして、今まで見たことのない、まるで魔法のような体感と食感、味わったことのない味覚、食事することそのものが一種のエンターテイメントとして提供されるのです。

冷凍庫などで食材を凍らせる場合、凍るまでに時間がかかるため、その間氷の結晶が大きくなり食材の細胞が破壊され、食品の品質が変化してしまいます。

一方、液体窒素は食材を中に入れることで、一瞬にして食材を凍らせることができます。このような瞬間凍結では氷の結晶が大きくなる暇がないため、そのままの形状で風味や食感を変えることなく、保存が可能になります。

液体窒素調理では食べるその瞬間までその美味しさを閉じ込めてくれるのです。そして、常温に戻った瞬間、その食材が盛り付けられた皿の中からは幾重にも煙がモクモクと出てきて、まるでマジックでも見るかのような派手なパフォーマンスで登場させることもできます。

また、他にも様々な機材を使うことで、キャビアと思って食べると何とそればメロンだったといった、見た目にも楽しい魔訶不思議な料理の演出ができるのです。

世界一予約が取れないレストラン「エル・ブリ」





世界で最も予約がとれない店と名をはせた、スペインが誇る伝説のレストラン「エル・ブリ(El Bulli)」というお店をご存知でしょうか。「エル・ブリ(El Bulli)」は、ワールド50ベストレストランのナンバー1の座を過去に何度も獲得したお店です。

その噂を聞き付けた世界中の人たちが、わずか45席のシートを巡って、年間200万件もの予約が殺到したのです。この店のシェフは、世界で最も革新的天才シェフと称されるフェラン・アドリア氏です。彼の料理はあらゆる食材を使って、全く異なる外観や触感を変幻自在に操る最先端の分子ガストロノミーとして、世界を席巻しました。彼が創造した料理は、感嘆と共に世界のスタンダードに変わっていきました。

フェラン・アドリア氏自身は、常に意外性と感動そして新しい食感を求め、飽くなき探求心と決してやむことのない食への拘りで満ち溢れています。そのため、新メニュー開発のために冬の半年間、お店を休業させることもあります。これでは、予約がとれないのも無理はありません。

しかし、2011年に惜しまれながら「エル・ブリ(El Bulli)」は閉店しました。その「エル・ブリ(El Bulli)」の陣頭指揮していたフェラン・アドリア氏を支えたトップシェフ3名が独立してオープンさせたのが「ディスフルタール(Disfrutar)」です。

エル・ブリを継承する「ディスフルタール」



「ディスフルタール(Disfrutar)」は、ワールド50ベストレストラン2019で第9位にランキングされたスペインのバルセロナにあるミシュラン二つ星のトップクラスのレストランです。予約が取りにくいことでも有名で、およそ6か月待ちです。

「ディスフルタール(Disfrutar)」は「楽しむ」という意味で、「テーブルを囲むお客様にはお店で過ごす時間を楽しんでもらいたい。」ということから名付けられたそうです。バルセロナには星の数ほど美味しいレストランがありますが、ガイドブックやインターネットの紹介記事に必ず載っているのが、「ディスフルタール(Disfrutar)」です。こちらでは、話題の分子ガストロノミー手法を用いた料理が提供されます。

お店は赤と黄色の市松模様などを基調とした個性ある外観で、間口が狭いためうっかり通り過ぎてしまいそうになります。店内に一歩入ったところには、カジュアルなカウンターがウェイティングスペースとしてあります。通路サイドのキッチンを横目に、次に通された場所には全面ガラス張りで、高い天井と綺麗で透明感のあるダイニングルームがありました。広々としており、テラス席もあります。

先のウェイティングスペースから、「エル・ブリ(El Bulli)」フェラン・アドリア氏の弟子の一人であるシェフのオリオール・カストロ氏が握手とともに歓迎の言葉で出迎えてくれます。

メニューは155€と195€のテイスティングコースがあり、それぞれのコースにクラシックメニューと新作メニューを加えた4種類の中から選びます。テーブルごとにスタッフがついて、英語で料理の説明しながら最後まで丁寧に給仕をしてくれます。

料理は、皿に盛り付けるだけでなく、木の箱、ガラスケースなどその料理を引き立たせる演出がありました。薄っぺらの何の変哲もない皿でしたが、後で調べると8,000円程することが分かりました。

ワインのペアリングコースというものがあり、その料理ごとに合うお酒が出されるようです。コースの真ん中辺りで生の「マテ貝」(大変珍しい。日本でもこれを食べさせるお店を見たことがない。)が出てきますが、ここでは柚子やすだちのような柑橘類を活かした日本酒が用意されていました。

スタッフは皆、丁寧で料理や演出の説明はもちろんの事、トイレの案内(暗い地階にあるため)まで、適度にフレンドリーで行き届いていると思いました。テーブルスタッフが外した際に、紅茶を注文したくなり困っていると、別のスタッフが素早く気付いて、中国の茶器を思わせる急須に入った紅茶を用意してくれました。帰り際にも笑顔で、外までしっかりと見送ってくれました。

ここで、そんな料理の一部と盛り付け方法を簡単にご紹介させていただきます。私は、「エル・ブリ(El Bulli)」そのものを重点的に供されるクラシックメニュー(155€)をお願いしました。4時間の間に20皿を超える料理がでてきました。


Frozen passion fruit ladyfinger with rum(冷凍パッションフルーツのビスケット)

ふっくら焼きたてのビスケットかと思いきや何と冷たいパッションフルーツ。

盛り付け: ブロンズの板をアーチ型にして大胆に。


Lychee and roses with gin(ライチと薔薇 with ジン)

薔薇の花びらに真珠のようなライチとジンのゼリー。
盛り付け: 黒い砂の入った円形のガラスの置物の上に。


Homemade cider smoked at the moment(スモーキー仕上げの自家製シードル)

シードル(リンゴ酒)をその場で炭酸化させます。 モクモク白い煙が沸き上がり、いったい何が起こったのだろうと驚きと興奮を覚えます。



Savory walnut candy with mango, tonka beans and whisky (胡桃のキャンディーとマンゴー,トンカ豆とウイスキー)

クルミのキャンディと、トンカとウイスキーで味付けされたマンゴー。
盛り付け: 大切なものをしまっておくのに丁度良い大きさの木の箱に、ザラメのような白い石を敷き詰めた上に。



Gazpacho sandwich with scented vinegar garnish (ガスパチョ風サンドイッチをビネガーの香りと共に)

一見なん変哲もないサンドイッチが出てきました。驚くなかれ、パンと思われるものはメレンゲを白いパン生地に成形して作り上げられたものです。 盛り付け:サンドイッチが映えるように赤い金属の板の上に。



Crispy egg yolk with warm mushrooms gelatin (パリパリ卵黄とマッシュルームゼラチン)

卵の黄身の揚げ物の下には、温かいマッシュルームの煮こごりジュレ。卵をひとかじりして、黄身を濃厚マッシュルームだしのジュレに垂らしていただきます。この料理は見た目の可愛いらしさ・味とともに人気があります。

盛り付け: 丸い白い皿の上に階段付きのエッグスタンドを置き、殻付きの白い卵の上に黄身がのっています。階段の下には小さな鶏の置物があり、料理なのに牧歌的雰囲気が表現されています。



Deconstructed Ceviche(脱構築のセビーチェ) セビーチェ(メキシコの魚介類のマリネ)を、クリームの層とその上にすりおろされたニンジンだけで表現した一品。 盛り付け: 白いクリームを敷いた赤いニンジンの形をしたものを真ん中が窪んだ丸い地味な色の大きな皿に。



Salt-cured razor clams with seaweed(マテ貝とワカメの塩漬け)

大きな白い塊がワゴンに乗ってきたと思ったら、その白い塊をナイフとフォークで丁寧に押し開き、出てきたものは先にもご紹介した塩漬けで熟成された生のマテ貝とワカメです。マテ貝は「ナバハス(Navajas)」といって、スペインではメジャーな食材なんだそうです。とは言っても生で食するのは珍しいと思います。



Our macaroni alla carbonara(私たちのマカロニ・カルボナーラ)

これは「ディスフルタール(Disfrutar)」の名物料理で、ゼラチンで作られたマカロニに、クリームソースとパルメザンチーズを添えて完成です。味はカルボナーラそのもの。 盛り付け: 小さなフライパンにのせて。



Tomato “polvorón” and arbequina caviaroli(トマトのポルヴォロン&キャビア)

スペインの伝統菓子「ポルヴォロン」に見立てた、トマトのテリーヌ。黄金色のキャビアは、スペインのオリーブオイル「アルベキーナ」で作られた人工キャビアです。これとともに、足つきの細いグラスに上から赤黄緑の三層になった飲み物?が添えられてでてきました。これは、飲み物ではなく野菜サラダなんだそうです。

盛り付け: 真っ白な大皿に真っ赤なポルヴォロンがポツンと一つ。皿が四角ければ、まるで日の丸のようです。そして、先のグラスを添えて。



Pibil Squab / Squab and foie gras bonbon(ハト肉のピビル / フォアグラ・ボンボン) 若いハト肉をメキシコ風のスパイシーな濃厚ソースで柔らかく煮込んだ一品です。 盛り付け: フランス料理に近いもので、お肉の周りに黄色のフォアグラ・ボンボンや緑の野菜を可愛いらしく添えて。



Cheesecake cornet(チーズケーキ・コーン)

コーンの奥にはクリーミーなチーズケーキが詰まっていて、一番底にはナツメグのようなスパイスが仕掛けられています。 盛り付け: 白い皿の上にイチゴ色した赤いコーン。そこからはみだすように、イチゴ色の赤い楕円形のチーズケーキとアクセントにミントを添えて。



Chocolate peppers, oil and salt(チョコレート唐辛子, オイルと塩)

大きなグリーンとレッドのまさに唐辛子がでてきたと思いきや、実はその形に見立てたチョコレートクリーム。ヘタの部分は本物なので食べないでください。濃厚なチョコの中に、ピリっとする絶妙な味わいです。 盛り付け: ここでも先に登場した黒い砂の入った円形のガラスの置物の上に。



Cocoa and mint cotton(ココアとミントのコットン)

花屋で時に見かける、観賞用としての綿の花ができました。白い部分は本物の綿なので、茶色いココアの綿菓子の部分だけ食べます。

盛り付け: 特殊なプレートに活けてあります。

美味しいだけでなく、全てにおいて盛り付けも凝っていて、「エル・ブリ(El Bulli)」フェラン・アドリア氏の「常に意外性と感動そして新しい食感を。」を再現していると思いました。

最後に予約についてですが、スペイン語が話せなくても「ディスフルタール(Disfrutar)」のホームページにインターネットの予約サイトがありますので、そこから簡単に予約できます。Google Chromeを利用すると自動的に日本語訳をしてくれますので、心配はいりません。

私の場合はスペインでの日程がなかなか決まらず、最初に予約サイトを見たときにはまだ空きがあったのに、決まった頃には既に予約でいっぱいになっていました。そこでダメ元覚悟でキャンセル待ちをすることにしました。予約がいっぱいでも、希望日をクリックするとキャンセル待ちのサイトが現れます。希望の時間と人数と名前・国籍・住所・インターネットのアドレスなどを入力します。しばらくして「ディスフルタール(Disfrutar)」からキャンセル待ち確認メールが届きました。

どうしても諦めきれずに、毎日「ディスフルタール(Disfrutar)」の予約サイトを覗いていました。すると、日によってはキャンセルが出ていることがわかりました。しかし、出発するまでに私が希望する日のキャンセルがあった旨の連絡はありませんでした。ところがスペイン旅行中の、希望日の前日夕方になって、「ディスフルタール(Disfrutar)」から連絡があったのです。

私は運がよかったのかもしれませんが、とりあえずキャンセル待ちでも予約することをお勧めします。そして、どうぞ美味しくて不思議でワクワクが止まらない食のエンターテイメントを「ディスフルタール(Disfrutar)」で存分に楽しんできてください。
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