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エブル ― 水の上に花を描く
Mimi 2020.11.02
キーツはローマで客死した時、25歳だった。
彼の墓石に名前は刻まれていない。彼が友人に頼んだのは、次の墓碑。
Here lies One Whose Name was writ in Water.
その名を水に書かれし者、ここに眠る。
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キーツの墓石
樋口一葉はこれを元に、自分の日記に『水の上日記』と名付けたのだと聞いたことがある。
名前なんて儚いものだという気持ちを夭折の作家は共有していた。
でも、一葉さん、キーツは水の「中」に名前を書かれたと言ったのであって、水の「上」ではないのですよ。何故なら、水の「上」には名前どころか、花も葉も描くことができるのですからね。でも『水の中日記』では、お魚が書いた日記みたいですが。
水の上に描かれた模様を紙に写し取ったのが、エブル(Ebru)である。
日本ではマーブリングとして知られている。日本の伝統では墨流しの手法である。トルコのエブルは本の装丁や壁の装飾、アラビア書道用の紙としてオスマン帝国文化を支えた。現代のエブルは、エブル作家、ネッジュメッディン・オキヤイ氏(Necmeddin Okyay 1883-1975)が生み出した花の技法が広められたものである。(エブルのテキストより。)
私がトルコ文化センターでエブルを習い始めたのは昨年のこと。月に一度の講座で、少しずつ技法を学んで行くようにカリキュラムが組まれている。課が進むと、水の上にチューリップやカーネーションなどの花を描くことが出来るようになる。私は、まだそこまで行かないのだが、いつかそんなのを描いてみたいという夢が、お稽古を続ける原動力になっている。(でも不器用な私が描いたチューリップなんて、人に見せたら「あら、おいしそうなリンゴね」なんて言われてしまいそうだが。)
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先生作のチューリップ
花や葉を描くのではない限り、やり方は簡単だ。A3版の紙より少し大きいステンレスの容器に、水が入っている。その水は、カラギナンが溶きいれてあるため少しトロッとしている。そこに胆汁が入った絵の具を筆でパシャパシャと振り入れるのだ。筆は、薔薇の枝の先に馬の毛がついている特殊な筆だ。4色程振り入れた後に、そっと紙を水の表面に落とし、容器の縁でしごくように、持ち上げる。すると、あらあら、振り入れた色が思いもよらない模様となって紙に写し出される。同じ色を使っても、振り入れ方や振り入れる順番などで、決して同じ模様は現れない。紙を引き上げて柄が現れる瞬間は、「お宝鑑定団」でゲストがボードに書かれた鑑定額を見る時ほどの―それほどではないかもしれないけれど―ワクワク感がある。
それでは、Mimiの初期の作品から今に至る軌跡(と言っても、大した進歩はないが)の写真をどうぞ。そして、私より高度な技術を習っているSさんのカーネーションを描く様子を載せる。
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だんだんカリキュラムが進むと、串やピンを使って複雑な模様を描く
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ダルガル エブル(波のエブル) は、水の中で紙をゆらして、光線のように見える模様を付ける
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ダルガル エブルにパステルで描いた朝顔
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パステルで描いたカワセミ
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絵具で描いた薔薇
カーネーションが描かれるまで
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まず、黄色の絵具を全体に散らす
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次にピンで緑の絵具を、水に差し込むようにして浮かべる
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何度も絵具を足しては、ちょうど良い大きさになるまで繰り返す
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先の緑の絵具の上に、もう一つ緑の丸を作る
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細いピンで葉っぱの形を作って行く
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花に移る。花も最初は丸く絵具を落とす
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良い大きさになるまで何度も絵具を足す
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![](https://www.noblestate.com/wp-content/uploads/2020/11/mc1028_C9_2.jpg)
花の周りのギザギザをつける
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花びらを分けて行く
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Sさんの作品
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紙に写し取った作品
お稽古の後には、必ずティータイムがあり、お目にかかったことはないのだが、スーパーバイザーの先生手作りのトルコ菓子と紅茶が振舞われる。先生は日本人だが、イスラム教に改宗し、トルコ人と結婚した方なのだそうだ。ごめんなさい。お菓子の写真を撮るよりも先に食べてしまいました。
トルコの芸術エブル、そして超がつくほどおいしいお菓子文化に浸る一時は楽しく過ぎる。
よく人に聞かれることがある。「出来た作品はどうするの?」それが一番困る質問なんですよね。
フィキサチーフをかけて、ラッピングペーパーにしたり、封筒を作ったことはある。でも、基本的には折り曲げないようにして積んであるだけだ。そのうち、古新聞の回収場所に大量のエブルの作品が縛って出ていたら、それはMimiのかもしれません。
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ああ、お腹が空いた!お稽古の日にふと、通りがかったトルコ人の店で食べたケバブサンド。飲み物(ラッシー)も入れて400円なんて、信じがたい。
トルコに関する話題もう一つ。
Mimiのブログ「遊びをせむとや生まれけむ」に登場した秀樹さんのZoom 講義のご案内です。
秀樹さんの面白いトークと音楽一杯のZoom講義、楽しみです。
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