反田恭平さんとハープの弦
Mimi 2023.04.19
「反田恭平さんのコンサートのチケットがあるんだけれど」
と息子が言った時、電光石火、間髪を入れず、「行きたーい」と宣言したのはわたし。その後、事後承諾のように、「行ってもいい?」とお嫁の真由ちゃんを見る。優しい真由ちゃんは「どうぞ」と快く言ってくれた。
そんなわけで、息子と二人でサントリーホールに行くことが決定した。日本で一番チケットが取りにくいピアニストのコンサートへ。
反田恭平さんがショパン・コンテストで二位という快挙を為した後、反田さんのインタビュー番組をテレビで見て、コンテストで高評価を得るのは一筋縄ではないことを知った。それまでは、ピアノの技術や、曲の理解が深ければ、練習次第で評価が決まると思っていた。ところが、ピアニストは策士でなければならない。まず選曲。最初の予選ではノクターンやエチュードで技術を見せつけ、審査員をうならせる。
最終審査の時には、ショパンがポーランドへの思いを込めた、ラルゴ変ホ長調「神よ、ポーランドをお守りください」そして、「英雄ポロネーズ」を入れ、ショパンへのオマージュを確固たるものへとする。審査員の心に一撃をくらわす作戦だ。
ちょんまげのようなヘアスタイルも、美容院に行く時間がないのかと思っていたら、自分の姿を覚えて貰うために、「サムライ」のイメージにしたのだった。
一位のブルース・リウ氏の演奏をYouTube で聴いたが、確かに素晴らしく、策士にならなくても余裕で優勝しそうだった。多分リウ氏は根っからの天才。反田さんは、努力派の天才。
今度のコンサート、この策士はどのように観客を魅了させてくれるのか、と行く前からワクワクが止まらない。
プログラムは、反田恭平ピアノのショスタコーヴィチの「ピアノ協奏曲第1番 ハ短調 作品35」と佐渡裕氏指揮のマーラーの交響曲第一番「巨人」。
どちらも馴染みのある曲だ。反田さんが、ショパンではなくて、あえてロシアの作曲家を選んだのは、ウクライナと戦争をしていても、音楽の世界に国境はない、というメッセージなのかな。
サントリーホールに行くのは久しぶり。コロナ以降初めてだ。取って置きの服を着ようとしたら、窮屈で入らない。これがコロナ太りか。何とか、体が入る服を見つけてほっとする。
夜の六本木
サントリーホール正面
サントリーホールの中
ピアノを弾きながら指揮もする反田恭平さんがバッチリ見える席
Japan National Orchestra の若者たち
反田恭平さん(右)と佐渡裕氏(左)
反田さんは、もう髪を後ろで縛るサムライ・ヘアスタイルをしていない
休憩を挟んでの、佐渡裕氏指揮の「巨人」では、まるで若い力が爆発して、炎上しているようで、佐渡氏が、「ここから先は、好きにやって!」とオケの団員にお任せして、最低限度の棒ふりをやっている箇所がいくつもあった。団員が指揮者の一挙一動を注視して、正確に棒のとおりに動くのを見慣れてきた私には、新鮮な驚きだった。
息子は、「円熟味はないな」と言っていたが、わたしは、それがないので面白かった。クラシックの演奏会に行って、「面白い」なんて感想を持ったのは生まれて初めてだ。
そして、なんとアンコール曲は、「ダニーボーイ」。わーい!私は、アイリッシュソング、特に「ダニーボーイ」が大好き。もし、ストリート・ハープとか駅ハープというのがあったら、まず弾くのがこの曲だろう。
コンサートの翌日、わたしは切れていたグランドハープの弦を張り替えた。ダニーボーイを弾くために。演奏の喜びを味わうために。
ハープの弦は、一本一本太さが違う。切れると、張り替え、調律という一仕事が待っている