Blog
Blog

点はすべての始まり

Mimi 2023.02.03

Pocket


おいしいボタニカルアート展のチラシ


新宿のSOMPO美術館に「英国キュー王立植物園───おいしいボタニカルアート」を見に行った。「おいしい」とはつまり食用となる植物のこと。

以前植物画を習っていたので、興味があった。何しろ、一つの植物を凝視し、花は蕊の数まで数え、葉は葉脈や虫食いまで正確に描く訓練は、肩こりの元凶だった。 今手元にあるのはへたっぴな植物画数枚。それらを描くのに、マッサージ屋さんにどれだけ支払ったことか。やはり、植物画は見て楽しむのが一番。

習ったことで、少なくとも植物画を描く苦労が理解できるようにはなった。




精巧な植物画


今回のSOMPOの展示では、Stipple Engraving───スティップル・エングレーヴィングという手法の物が目を惹いた。 つまり点刻法で、銅板に極小の点を沢山打ち、白黒の絵を作成したもの刷り、それに手彩色する手法である。これが植物画の普及に貢献した。

離れて見れば、きれいな果物の絵も、近寄ってまじまじ見ると、無数の点の集合体で、その卓越した技巧に思わず「ワーォ」と心の中で叫んでしまう。 点も大きさや形が微妙に工夫されている。

ああ、点ってすごーーい!この点々を打った人は、どれだけマッサージ屋さんに支払っただろう。それに色を載せる人も大変。 ちょっとのはみ出しも許されない塗り絵。息を詰めて塗ったに違いない。一日何枚の紙に色を載せたのだろう!




スティップル・エングレーヴィング
よく見ると、微細な点々で、陰影が付けられている。





そんな時、ニュージーランドのニッキーのFacebookの投稿にびっくりした。白黒のエコー写真に写ったひとつの点。これって・・・。 何とニッキーが妊娠したのだ。喜ぶより、怖くなった。と言うのは、ニッキーは遺伝性の難病、Cystic Fibrosis (嚢胞性繊維症───以下CFと訳す)にかかっているからだ。 ニッキーのママであるアンから、妊娠したら体がもたずに死んでしまうので、孫は望めないと聞いていた。

ニッキーは、私の息子とたった一週間違いに生まれた34歳。アンと私は、同じ大学寮で一年間過ごした。 お料理、本、ガーデニングが好きという共通点で、メールはいつもニュース満載。特に同い年の子の話題は豊富で、ニッキーは姪っ子みたいなものだ。

ニッキーは自分の病気にも関わらず、動物保護活動に精力を傾け、南米まで出かけて保護活動をしている。日本に来た時も、まず犬猫保護シェルターでボランティア活動をした。 そんなニッキーの活躍を私は眩しく見ていたが、華やかな活動の陰で彼女は、度々重篤な状態になり、数週間の入院を繰り返していたのだ。

そんなニッキーが妊娠しても大丈夫なのだろうか。もしかしたら、自らの危険を顧みず、子供を産もうとしているのでは?私は早速アンにメールして危惧の念を伝えた。 アンはすぐに返事をくれた。なんと、CFの特効薬が出たというのだ。2019年にFDAが承認した新しい薬。それを5か月服用した結果、これまでの症状を抑え、今回の妊娠に繋がった。

これまで、アンには孫のゲンちゃんのことを書く時に、ほんのちょっと心にひっかかりがあった。 アンはいつも、ゲンちゃんの成長を自分のことのように喜んでくれるけれど、アンには孫が望めないことがつい頭の中によぎるのだ。今度からは、思いっきり、孫の話で盛り上がろう。

一つの点に見えたニッキーの赤ちゃん。そういえば、私が妊娠を知って初めてのエコー写真を見た時も一つの点だったっけ。それも、心臓の鼓動とともにかぼそく瞬く点。 そのあえかな点に生命が存在しているのだ。その時に思い出したのがハレー彗星。とても自分のお腹の中の現象には思えなくて、宇宙からやってくる彗星のように感じられたものだ。

ウィリアム・ブレイク(William Brake)の詩に次のような一行がある。

To see a World in a Grain of Sand(一粒の砂に世界を見る)

点刻法で打った一つの点が無数に集まって一枚の絵画になる。生物の赤ちゃんは、一つの点から発達し、大人になる。一粒の点には、あらゆる可能性が秘められているのだ。 全世界がこの一粒の点に集約されている。そして、その点が集まって世界を構成している。

点はすべての始まり。点って素晴らしい!
Pocket