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エスケイプ先は花菜ガーデン───でも・・・

Mimi 2022.12.19

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ギャー! 私の朝の第一声。今朝もベランダの水道の蛇口を回した途端、ホースは勢いよく目覚めて、よりにもよって出勤着に噴射する。跳んで避けると、今度は靴下がびしょびしょだ。ああ、服も靴下も替えなければ!

たった3メートルのホースなのに、どうしてこんなによじれるのだろう。まるで蛇がとぐろを巻くようにくねくねして、ホースの先を持っていても必ずわたしを狙ってくる。何とかくねくねを直そうなどという考えを起こそうものなら、もう収拾がつかない。頭からも水をかぶる羽目になる。ホースは右にねじって回しても左に回しても、まっすぐにはならない。ある時など、真ん中から折れ曲がってねじりパンのようにぐるぐる巻きになっていた。

私の小さなベランダの半分は、羽衣ジャスミンが覆うガゼボになっている。その下におしゃれなテーブルや椅子を置いているのだが、そこに坐るのは友人が来た時くらいだ。友人達は、私がそこで、優雅に植物に囲まれて、お茶を飲んでいると思っているかもしれないが、大間違い。



ガゼボと羽衣ジャスミン


お気に入りの椅子


ベランダで私は、常に働いている。何しろ小さなベランダにミモザや椿、ザクロの木の他に薔薇の鉢がひしめいているのだ。定期的に消毒していても、常に葉っぱの状態を観察し、黒点病やうどんこ病、ダニの被害がないことを確かめる。もし、葉っぱ1枚にでも異常が見つかったら大騒ぎだ。噴霧器を出して来て、治療の薬、予防の薬、ついでに虫の薬、液肥や活力液を加えて調合し、全体に噴霧する。


病気と虫の薬の一部


噴霧の前には全身を覆う上っ張りを着て、帽子をかぶり、手袋をする。それでも、薬を撒いた後にはシャワーを浴びなければならない。そして洗濯も別にする。

買った肥料だけではない、台所の生ごみは、北海道から取り寄せた「生ごみアップZ」を振りかけて、堆肥にするのだ。卵の殻とか、コーヒーかす、果物の皮、魚の骨、こんなものが貴重なお宝に見えてくる。しばらくすると、生ごみがふっかふかの土になっている。


堆肥作りに欠かせない生ゴミアップZ


土壌のPHチェックも欠かせない。


デジタル土壌酸度計


薔薇の棘で、腕は常に猫にひっかかれたような傷だらけ。かがむので膝も腰も痛い。それでも、ガーデニングはやめられない。去年読んだThe Well-Gardened Mind ─── The Restorative Power of Natureで、作者の精神科医でもあるSue Stuart-Smithはガーデニングがいかに人の心を豊かにし、病気を改善させ、土いじりにより浮世の苦労を忘れて自分を取り戻すことが出来るかを、数値的資料を駆使して力説していた。犯罪者だってガーデニングにより、立ち直れると言う。


オーディブルで聞いたThe Well-Gardened Mind


でも、これって別の病気や問題から「ガーデニング病」にシフトするだけではないか?そして、それは不治の病だ。

もう、薔薇にかかずらわるのはこりごりだ。これ以上薔薇を買うのをやめようと思う。それなのに、新しいカタログが来ると、無性にまた欲しくなるのである。たくさんの候補から考え抜いてようやく1本に絞ったとする。そこでそれを注文しようとすると、一箱に4本まで送料無料という文字を見つけるのだ。すると、後3本注文せずにはいられない。

ついでに、土や鉢も注文するのだが、もしかして、土が足りなくなっては困るな、と大目に土を注文。すると、土だけあっても鉢がなければ、と鉢も注文。

すると、土も鉢もこんなにあるからと、ついまた薔薇を注文。その繰り返しで、コロナでゼロから再開した薔薇栽培なのにもう50本近くになってしまった。

だが咲いた花を楽しむ余裕はない。木を弱らせないために、花を見つけ次第どんどん摘み取る。農繁期のお百姓さんが収穫するのと同じだ。咲き始めた薔薇を全部摘み取って、ベランダに全然花が咲いていないのを確認すると、ようやくほっとするのだ。

自分のガーデンだから、こんなに気ぜわしいんだ。そうだ、よその人が管理するガーデンに行こう!それなら、気楽にのんびりお花を観賞できる。

そこで、百合子さんを誘って平塚の花菜ガーデンに行った。お天気の良い暖かな日。湘南新宿ラインに乗ると、向かい合わせの椅子席で、まるで遠足気分。バスで花菜ガーデンに昼前に到着すると、花菜ガーデンの前にはJAの直売所がある。


JA直売所


百合子さんが、まずはそこに寄って、ソフトクリームを食べない?と提案した。JAのソフトはおいしいと聞いていた。優しい百合子さんは、ソフトクリームに目のない私の気持ちを察知してくれたのだ。

ふんわりあまーいジャージー牛乳のソフトを、花の苗を見ながら食べて幸せな気分。


ソフトクリームはジャージー牛乳とイチゴ


花菜ガーデンは切符売り場から素敵だった。何しろ、こんなに大輪の薔薇って存在するの?というほどの直径20センチくらいある薔薇のブーケが飾られているのだ。

そして、薔薇園と言ったら・・・。薔薇の歴史に沿って、いくつもの区分に別れている。オールドローズは秋は花を付けなくても、赤い実が無数のランタンのよう。現代に近づくにつれて四季咲き品種が増え、見事な花が見られる。香りの薔薇のコーナーもある。咲いている薔薇に鼻を近づけてクンクン。ああ、いい香り!残念ながら、ダマスクだの、ミルラだの、ブルーだの区分はあるらしいのだが、よくわからない。確かに違いがあるのだが、どれも良い香りだ。

花菜ガーデンの写真


ランタンのような薔薇の実


現代のバラは秋も満開


コンパニオンプランツが薔薇を引き立てる


巨大なトピアリーに白薔薇





そのうち、カレル・チャペックの家と呼ばれる建物にやってきた。その時に思い出した。大昔にチャペックの『園芸家の十二か月』を読んで笑い転げたことを。冒頭部分に、ホースと格闘する園芸家の姿が自虐的に出て来た。それって、今の私と一緒。確か、園芸家が、土を買ってはそれに合う鉢を買い、球根を買いを繰り返すんだっけ。球根が薔薇に変わっただけで、それも今の私の姿。




チャペックの家に絡まる赤い蔦


カレル・チャペックのThe Gardener’s Year


本の中には、ユーモラスな挿絵がいっぱい


以前本で読んで、他人事だと笑っていたことが、現在の私の姿になっていることに気づいた。

さて、自分の庭からエスケイプして、気楽にガーデンを楽しもうと訪れた花菜ガーデン。いつの間にか、わたしは手帳を出して、メモを取っていた。うん、この薔薇は良い匂い。花もきれい。うちのベランダにお迎えしよう。うん、この薔薇もいいね。ああ、この色合いは最高。これも注文しよう。

花菜ガーデンで、素敵だと思った薔薇たち


王妃アントワネット


ラ シャンス


ユリイカ


結局、いつの間にか花菜ガーデンは、次に買う品種選びの会場になってしまっていた。そして、もうこれ以上薔薇は増やすまい、と心に決めていたのに、今続々とうちには大苗が届いている。ああ、不治の病はつらいよ。
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