ピカソになりたーい!
Mimi 2022.10.31
このタイトルを見た人の第一声は、「そりゃ無理でしょ!」であることは承知している。私も自分がピカソになれるなんて、これっぽっちも思っちゃいない。でも、表参道のヨックモックミュージアムに、「ピカソのセラミック─モダンに触れる」という展覧会を見に行って、ピカソがうらやましくなった。
ヨックモックミュージアムのリーフレット
オリジナルの絵を、職人が真似して描き、ピカソのお墨付きを得た上で市場に出したのだ。だから、贋作とは言えない。ある絵付け職人の出来を、ピカソは「僕よりうまいね」と言うことで、やんわりとけん制したそうだ。きれいに整いすぎていたのだろう。ピカソは、自分の作品に対する多くの人の需要に応えるためと、南フランスのアルティザンの陶工に生活の糧を与えるためにこのお墨付き制度を考案した。
ピカソ展のワークシートより
次には、同じつる首の花瓶を今度は立てたまま、注ぎ口部分が頭になるように広げ、おっぱいをつけて、腕を二本足して女の人にする。
実は、私が「ピカソになりたーい!」と思ったのは、そのドキュメンタリー・フィルムを見た時である。誰かが私の背後でロクロを回し、次々に花瓶やら何やらを作って、はいっ、と提供してくれたらどんなにラクチンだろう。
私は陶芸のアトリエでは普段、首像を作っているが、時に自分用のオリジナル陶器を作ることがある。孫のゲンちゃんがうちに来た時使うゾウさんのカップは、鼻が取っ手となっている。ゲンちゃんは赤ちゃんの時から両手でそれを持って飲んでいる。
ゾウさんのカップ
今手がけているのは、パンジーの皿。ろくろで皿を作り、少し乾燥させて固めてから、パンジーの花に彫刻する。その後、素焼き。絵付けして本焼きすれば完成だ。このプロジェクトを始めてから、大分経つのに、まだ6枚しか出来ていない。
そこで考え付いた。ピカソだって陶芸を習ったので、ロクロを使った陶芸作品を作れるはずだ。そこをあえて専門家に任せたのは、出来るだけ沢山のクリエイティブな作品を作りたかったからではないか。
きっとキャンバスでも同じことが言える。今ポーラ美術館でやっているピカソの展覧会の目玉は「海辺の母子像」。1881年生まれのピカソが1902年に描いた若い頃の作品。青の時代の代表作のこの絵の下には、二枚の絵が描かれていることがX線写真で確認されている。ピカソが若かったからキャンバスを買うお金を節約したのでは、という人がいた。本当は、ピカソが描きたい衝動にキャンバス作りが追い付かなかったのではないか。
ポーラ美術館のリーフレット
ヨックモック美術館に行って味わった、ピカソはいいな、うらやましいな、という気持ちはずっと消えない。だけど、もし私の後ろで陶工が専属でロクロをひいて作ってくれる粘土の作品を、私が出来るそばから加工したら・・・一体どれだけの駄作が生まれるだろう。焼いてしまったら、不燃ごみに出すしかない。ぎゃあ、それは資源の無駄だ。
やっぱり、今のままでいいのかも。
蓋付きのキリンの入れ物
チューリップの入れ物 Mimi作