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百本のペロペロキャンディ

Mimi 2022.03.28

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水栽培のヒヤシンスが咲きだし、蘭の花のつぼみも次々開いてきた。ベランダの水仙やアイリス、チューリップも蕾が膨らみ、薔薇の新芽も元気に突き出て開き、花火みたいだ。じーっと植物を見ている私を誰かが見たら、待ちに待った春を愛でていると思うだろう。


春の花が咲き出した

だけれど、私の心はウクライナのことで一杯。平和が壊され、絶望し、未来に不安を感じている人たちに思いを馳せている。そして、自分がなんにも出来ない無力さをひしひしと感じ、いたたまれない。

数年前のこと、ウクライナの女性の絵を描いたことがある。モデルで現れたのは、さらさらの金髪の美しい女性。その人がお祭りの花冠をかぶると、フローラそのものだった。色とりどりの造花の冠には、赤や緑の長いリボンがついている。こんな冠をかぶって乙女たちが踊ると、花が揺れ、リボンが跳ねてどんなにきれいだろう、とうっとり想像した。


ウクライナの花冠を被った女性

あの、祭の乙女たちはどこに?それを見て笑いさざめく子供達や大人たちはどこに?そんなことを考えてばかりで一日が過ぎる。

ところがある日、孫のゲンちゃんが幼稚園から、大事そうに黄色い折り紙細工を持って出て来たことから、事情が変わった。ペロペロキャンディだと言う。8枚の折り紙を組み合わせてキャンディは出来ている。早速ゲンちゃんに作り方を教えてもらい、自分でも作ってみる。うん、なかなか可愛い。もっと可愛く出来ないか。絵柄のついた折り紙を混ぜてみる。色の組み合わせを考えたり、絵柄を変えたり、次々と新作を作ってみる。一つとして同じものはない。次にもっと可愛いのを作ることだけを考える。


4歳のゲンちゃんの作ったペロペロキャンディ

2日間作り続けたが、まだ可愛い物への探究心は治まらない。会心の作を作ったつもりでも、もっと可愛いのが出来そうだと思う。無地の折り紙と柄の折り紙の並べ方を工夫し、色の配色を考えて、作り続ける。棒も、最初は単に紙を丸めていたのだが、越前和紙を細長くし、菜箸に斜めに巻きつけてから箸を引き抜くと、より素敵になった。

いつの間にかペロペロキャンディ作りに夢中になっていた。手はキャンディ作りをやめないのだが、心はウクライナの平和を祈っている。これって、千羽鶴を作る時の心境じゃないか、と思った。そうだ、千羽鶴の替りに、百本のペロペロキャンディを作ろう。多分千羽鶴を作るくらいの時間を費やすことになるだろう。折り紙で百本のキャンディを作ったところで、ウクライナに平和が来るとは思えないが、一種の祈りの境地である。



この祈りの気持ちが気体となって空気に混じり、いつか戦争を仕掛けている人たちの肺の中に流れ込むかもしれない。

出来るとすぐに人にあげてしまったので、百本のペロペロキャンディが勢ぞろいした写真はないのだが、私の百本キャンディ・プロジェクトは達成した。


ペロペロキャンディの一部

不思議に思ったのは、ペロペロキャンディを作っていると、ひと時、心の平穏が取り戻せた気がしたことだ。おろおろと心を乱していた時より、時間が早く経った気もした。



その現象を解き明かしたくて、カルロ・ロヴェッリの『時間は存在しない』(L’ordine del tempo NHK出版)という本を読んだ。一般人向けの本らしい。私でも完璧に理解できそうだ。500年くらい勉強を続ければ。

だが、ここに書かれているアリストテレスの言葉は、私の疑問に答えてくれた。アリストテレスは、時間とは変化を計測した数であると考える。何も変化しなければ時間は存在しない。「心の中で何かが変化すれば、すぐに時間が経過したと感じる」と『自然学』の中で述べている。

私が、ウクライナの人たちをおもんばかっている時には停滞していた時間が、より可愛いキャンディを作ろうと手と頭を使い続けることによって、経過したと考えられないか。

アルキメデスと真逆の発想をしたニュートンは、アルキメデス的な相対的な時間が存在することを認めているものの、「本物」の時間、事物が生じることなどとは無関係の時間が存在すると主張する。

この二人の巨人の考え方を統合したのはアインシュタインだった。ここらへんから、重力場とか磁場とか、ユークリッド幾何学という言葉が出てきて降参。だが、アインシュタインは、「過去と現在と未来との違いはしつこく続く幻でしかない」とも言う。

ああ、この世界の状況が、「しつこく続く幻」なのが本当なら、と切に祈る。どうせなら、花の冠をかぶった乙女たちが笑いさざめいている幻をしつこく見続けたい。

ペロペロキャンディの作り方

上  折り紙を三角に半分に折る
中  上の一枚を折って、折印を付ける
下  左上の折印に向かって右と左の角を折る



上 上の角一枚だけ折る
下 折った紙の端を、三角のポケットに入れる



上記の折り紙を8枚作り、さっき袋の中に入れなかった角の三角を、隣の袋に入れてつなげる。ノリを使うこと。


柄入りの折り紙を使うと可愛い
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