Blog
Blog

中国不動産

Shirotaromaru 2022.03.24

Pocket

ここのところ中国で多くの不動産デベロッパーがデフォルトの危機に直面しているのはご承知の通りだ。2021年9月、中国最大の不動産デベロッパーである恒大集団が約3,000億ドル(約35兆円)の債務を抱え、社債の利払いを見送ったことは世界市場に大きな緊張を与えた。保有株の売却などでデフォルトは一時免れたものの、その3か月後の12月に再び利払いが行われず、最終的に債務不履行と判定された。

その後も広州を拠点とする中堅不動産会社の奥園集団がデフォルトに陥り、比較的財務が健全と評価されてきた正栄地産集団も債務が返済できない可能性が指摘されている。ネガティブサプライズの続く中国不動産市場についてとりあげてみたい。

■高騰する中国の不動産価格と膨らむ債務

一般的に、物件価格と平均年収を比較することで不動産価格の値上がりを測ることができる。中国の如是金融研究院の調査結果によると、広東省深圳市の物件価格は平均年収の57倍、北京市では55倍にも達しており、平均的な生活を送る市民には到底諦めるしかない価格にまで上昇している。1990年代のバブル時代の日本において、東京都で18倍前後だったことと比較しても、現在の中国都市部の不動産価格の高騰がすさまじいものであることは明白である。

元々公有制だった中国の土地は、1990年代後半に土地の所有権と使用権が分離され、土地の使用権が払い下げられたことで住宅の私有化が可能となった。政府による住宅改革制度の後押しもあり住宅を購入する個人が増加する中、地方政府や不動産デベロッパーは不動産の需給や価格を強引に押し上げてきたという背景がある。

不動産デベロッパーは土地の使用権の入札のために国有銀行から融資を受け、更に土地開発の資金も借り入れた。不動産を購入する個人もまた、購入資金を借金することで、不動産に係る債務が大きく膨らむこととなった。かつてない不動産市場の好況に多くの不動産デベロッパー各社が高いレバレッジを効かせた投資を拡大し、また事業の多角化に乗り出していたことも裏目に出た格好となった。

■デフォルトの原因の一つとなった過熱抑制策

2020年に中国政府が新型コロナウイルスのパンデミックを受けた景気対策として金融緩和を推進したことも更なる追い風となり、不動産市況はますます過熱感を帯びていった。不動産企業の過剰債務や過剰投資、また投機的な住宅投資などから起こる不動産バブルを危惧し、中国政府は2020年8月に不動産市場の過熱抑制策を導入した。住宅ローン総量規制や住宅の購入規制などの「需要抑制策」と、不動産企業に対する資金調達条件の厳格化という「供給抑制策」を講じることで市場をコントロールしようとしたのだ。

しかし、銀行の不動産向け融資規制の強化として導入した「3つのレッドライン」と呼ばれる不動産企業の資金調達条件の厳格化は諸刃の剣でもあった。負債の対資産比率によって有利子負債の増加率を制定するもので、規定を超えた数が多くなるほど金融機関からの借り入れが制限されるというものだ。この措置で多くの不動産デベロッパーの資金繰りが悪化し、社債の利払いや借入金の返済が滞るデフォルトリスクに直面している。

■リーマンショックの再来はあるのか



中国不動産のバブル崩壊により、2008年のリーマンショックのような世界的な金融危機が再来するのではないかと懸念する人は多い。また、1990年代の日本のバブル崩壊時と照らし合わせ、崩壊後からの経済の立て直しに数十年が必要とされるのではと危惧する声も耳にする。しかしながら、各国の中央銀行や経済アナリストには不動産価格の急落や不動産開発投資の急減といった深刻な状況に陥る可能性は低いと見る向きも少なくない。

中国政府が不動産市場を需要と供給の両面で抑制したことで、不動産価格の伸びは現在所得と同等のペースに保たれている。所得の伸びに比べて不動産価格が大きく上昇している場合は不動産価格が急落するリスクが大きくなるが、米国や韓国のようなコロナ禍の金融緩和による住宅価格の大きな上昇は中国では見られていない。また、資金繰りに窮したデベロッパーは手持ちの物件の販売完了後でないと新しい物件に着手できなくなったことで、以前より抑えられた価格設定の物件が増えたことも価格の高騰を防ぐ一因となっている。 不動産開発投資が経済成長に見合った水準までに抑制されていることも、不動産市場をソフトランディングさせるという中国政府の強い意志を感じさせる。

また、これらの抑制策によってデフォルトの可能性が生じたとしても、不健全な経営を行う不動産企業を排除することで最終的には不動産市場全体の健全化を図ることができるのだ。デフォルトの危機に陥っている恒大集団についても、リスクを効果的に解消し社会の安定を維持するという名目で広東省が作業チームを派遣し、リスク対応と経営管理の強化や経営の正常化を図ろうとしている。

加えて、日本のバブル経済崩壊時の状況を参考に、不動産を担保とする場合の融資額を一定に抑えたり、貸倒引当金を積んだりなどの対策も併せて行っている。中国の金融システムの安定性は以前より大きく改善しており、市場からの信頼性も高まりつつある。

■今後の課題

上海など大都市と地方都市の不動産価格の乖離は非常に大きい。高騰する地域の価格の安定化を図り、均衡のとれた成長を目指していくことが求められている。 また、一般住宅より利幅の大きい富裕層向けの住宅の増加率が高く、中間所得層の手の届く物件が少ないことも早急に解決すべき問題の1つだと考えられる。

一般住宅の供給を増加させることに加え、いまだ数の少ない賃貸住宅市場を整備するなど需給のミスマッチを解消する手立ては今後重要となるだろう。そして所得格差の推進や制度の改正だけでなく、地方政府と不動産デベロッパーの癒着関係の抜本的な改革も欠かせない課題となっている。
Pocket