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アメリカンドリームの現実、富裕層に対する国民感情は?

焔(Homura) 2022.01.31

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長引くパンデミックの中、アメリカ社会でも国民が富裕層に抱く感情は複雑です。アメリカ人が好むのは「一代にして富を築き上げる」起業家。このタイプの経営者はアメリカでも尊敬の眼差しを集めることが多くなります。それに対して収入格差の広がりが更に大きくなった昨今、富裕層に対しては若干懐疑的な視線が向けられるようになったことも否定できません。

アメリカ人の考えはとってもシンプルです。私自身アメリカに住むセレブなどと話をすると感じられることですが、ほとんどの富裕層は「金持ちになれないのは本人の努力や能力不足」だと考えています。アメリカ人が考える「アメリカンドリーム」の根底にあるのは、努力とアイデア次第で誰にでも大金持ちになる土壌がある、それが基準的な考え方となっていることだと感じます。

■アメリカ独特の富裕層観

アメリカで多くのセレブと接して感じるのは、富裕層に対する愛情と憎しみの両極端の感情です。特に、長く続くコロナ禍も国民の感情に大きな影響を与えています。米コーネル大学不平等研究センター長 キム・ウィーデン教授の「アメリカ人は無一文から金持ちになるという物語に魅了されている」という発言は、私自身とても興味深く感じました。

世界中でデジタル化が進み、いろんなプラットフォームでの発信ができるようになった近年、アメリカンドリームに対する信念はさらに強くなってきているようです。

このような考えは世界中の富裕層に共通するものではなく、アメリカ人特有の考え方だと思います。言ってみればアメリカで作り上げられた「富裕層感」とも言えますね。そしてこのような考え方が、富の分配に対して消極的なアメリカ国民の姿勢を裏付けていると言えます。要するに「誰にでも一攫千金のチャンスがある」という考えがベースにありますので、富裕層への課税を強化するような政策は支持されない傾向にあります。

■不況の苦しみに喘ぐアメリカの中産階級

アメリカ人独特の考え方かもしれませんが、富裕層への課税強化が支持されるのは具体的な目的が政策に組み込まれている場合に限るようです。例えば、富裕層が支払う税金がアメリカ国内での教育や職業訓練など、長期的に見て全国民に平等なチャンスが与えられるようなものです。

とはいえ現実では、アメリカにおける格差拡大はとても深刻化してきていると私も感じます。経済の回復に伴ってその追い風を受けられるのは富裕層に限られることから、国民の共感的な態度も徐々に変化してきています。アメリカの中産階級が苦しみ続ける中、多くの富裕層は資産を株式などに投資し続けています。コロナ禍に伴うリセッションの中、企業利益を上げ続けることによる恩恵を受けるのは、富裕層に限られる現場は見るからに明らかですね。

アメリカの経済政策研究所の資料を見ると、アメリカの大手企業のCEOクラスの平均収入は一般的な労働者の300倍以上に膨れ上がっています。アメリカ国内の景気には関係なくこの収入格差はむしろ広がる傾向にあります。アメリカンドリームを信じ続けるアメリカ人ですが、米国内における富裕層に対する好感度は年々低くなってきています。お金持ちにはなりたいけれど富裕層に対する感情は愛憎が入り混じった複雑なものに変化してきているようです。

実際の数字でも明らかですが、過去10年でアメリカ国内における富裕層への好感度は9ポイント以上も低下しているのが現実です。ピュー・リサーチ・センターという世論調査機関が行なったリサーチによると、約7割のアメリカ人が富裕層と一般国民との価値観がますます離れてきている、と回答しています。

今後も予想されるアメリカにおける格差拡大ですが、富裕層に対する風当たりはますます強くなるのかもしれませんね。この格差拡大がアメリカ民主主義に対する幻滅を生むのではないかという声も聞こえてきます。
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