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中国における子育て・学習塾規制について

Shirotaromaru 2021.12.15

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2021年の初夏から夏にかけて、中国は子育て制度やその子どもの学習方針について大きな変更点を加えた。近年ますます過熱していた中国の受験制度の根幹を揺るがすような政策転換だったため、中国国内だけでなく、世界の教育界にも影響が及ぶこととなった。今回は、2021年に大きな話題となった中国の子育てや教育にまつわる話題について取り上げたいと思う。

■中国の学校制度

まずは中国の学校制度を整理しよう。中国の教育制度は基本的には日本と同じだ。小学校6年、中学3年、高校3年に大学4年の合計16年制となる。義務教育は小・中学校の9年間だが、貧しい農村部には学費が払えず小学校のみ履修する子どもたちが多く存在している。

また高校から、大学受験に進む普通高校と、就労のための技術や専門知識を学ぶ職業高校に分かれる。所謂エリートの道に進みたければ普通高校に進学し、「高考(ガオカオ)」と呼ばれる一斉試験で高得点を取って高レベルの大学に入学することが必須だ。子どもとその親たちは、この「高考」を目標に見据え幼い頃から勉強に取り組むことになる。 しかしながら地域によって学習内容が異なることも通例で、日本のような全国一律の学習指導要領に則った指導はない。農村部では財政難や人材不足などの理由から一般的に国語・算数・体育の3科目の指導だけが行われている。

■1人っ子政策から3人っ子政策への転換

中国政府は2021年7月の学習塾規制に先駆けて、同年5月には1組の夫婦が3人まで子供を持つことを認める「3人っ子政策」への転換を行った。中国の子どもの数についての政策は、人口のコントロールを目的としたものだ。元はと言えば、急激な人口増加で将来的な食糧不足を懸案した中国政府が都市部の人口を抑制するため1979年に「1人っ子政策」を導入したことが始まりだ。子どもの人数が1人であれば学費を免除したり、進学や就職の優先権を与えたり、年金を加算するなど多くの特典を提供した。逆に2人目をもうけた場合には非常に高額な罰金を科すなど強制力の高い政策は出生数の抑制に大きな効果を発揮したが、急激な少子化=高齢化をも引き起こした諸刃の剣であった。

労働力の減少や労働者賃金の上昇、また国民の反発などから政府は2015年から子どもを2人まで認めるという「2人っ子政策」に転換したものの、明確な効果は現れなかった。成長力の鈍化、また競争力の低下を危惧した中国政府は2021年5月にさらにもう1人の子どもを認める「3人っ子政策」へ再び転換することとなったのである。

■突然の学習塾規制

富裕層の多い都市部では、我が子が受験戦争を勝ち抜けるようにと受験対策塾や様々な習い事に通わせる保護者がおのずと多くなる。塾以外にも、厳しい指導で「訓練所」や「収容所」と呼ばれるような超スパルタ高校が出現するほど、受験に対する熱量は大変高まっていた。

そこに降ってわいた突然の学習塾規制に、学習塾経営者のみならず当事者である学生とその保護者たちは一時パニックに陥った。中国政府の発表した規制は、学習塾などの運営企業を非営利団体化すること、週末などの休みに講義を行うことの禁止、また外国の教育課程を教えることや外国人講師によるリモート教育も禁止するというものだったのである。

■学習塾へのインパクト

Newsweek日本版の記事によると、今回の学習塾規制はこれまで約1,200億ドルの規模だった中国国内の教育産業に対し絶望的な打撃を与えたとされている。英語教育サービス大手の新東方教育科技(ニュー・オリエンタル・エデュケーション・アンド・テクノロジー・グループ)の株価は学習塾規制が発令された7月に大幅に下落しているのが見て取れる。


(出典:Trading View社提供のチャート)

2021年5月頃に16米ドル程度で推移していた株価は、7月以降は2米ドル台で低迷を続けている。また同年8月には同業の大手学習塾「巨人教育」が経営難で倒産したとも発表された。

■学習塾規制の目的

中国政府はなぜこのような規制を行ったのか、その目的はいくつか考えられている。 政府は子どもの受験戦争の激化は、金銭的負担から少子化を加速し、また子どもを持つ家庭環境に悪影響を及ぼすと見ていた。学習塾を規制し、子どもの教育にかかる金額を減少させることで金銭的にも時間的にも余裕のできた保護者が2人目、3人目の子どもを持とうと考えることを期待しているのだ。

また子どもの塾費用等に年間数千ドルを費やしてきたとみられる都市部の富裕層はごく一部であり、中国国内の子どもの約7割は農村部や内陸の都市に属し、学習機会や教育の質が著しく低下したままとも言われている。 1人っ子政策の時代より貧しい農村部では隠れた2人目・3人目が存在するという。労働力としての子どもたちであり、高額な罰金を免れるために誕生を届け出ていないため戸籍がなく、学校はおろか病院にも通えない子どもたちだ。このような子どもたちは実は数千万人いると言われており、中国政府はこのような都市間の貧富の差、また学力格差の拡大を是正し、教育の公正化を図ろうとする姿勢を次の選挙に向けて明示したいという思惑もあるのだろう。

今回の規制の後、規制の目をかいくぐって無許可で営業を続ける塾や、塾よりも高額な家庭教師の利用に切り替えた保護者なども少なくない。学習塾規制が入った後、以前より金銭的にひっ迫した状況になったと不満を持つ保護者も多く、問題は解決するには至っていない。

中国の教育大改革はまだ始まったばかりで、いまだ過渡期と言えるだろう。11月に入り、学習塾に対する一部の緩和策が打ち出されたが大筋に大きな変更点はなかった。引き続きどのような政策が打ち出され、中国の巨大な教育市場がどのような方向に舵をとっていくのか、今後も注視していく必要があるだろう。
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