Blog
Blog

25kgの知識と世界に一つのクリスマス・ツリー

Mimi 2021.11.24

Pocket

孫のゲンちゃんと一緒にスイミングスクールを出ると、いつものパパとの待ち合わせ場所に急ぐ。木々の向こうに白い車が止まっている。「あれって、パパの車?」とゲンちゃんに訊くと、「パパだよ」との返事。「どうしてパパだってわかるの?」と私。「だって、ポルシェだよ。わかるでしょ?」とゲンちゃん。その口ぶりから、おばあちゃんはどうしてこんな当然のことがわからないの?という驚きが伝わって来る。車は色でしか区別できない私としては、4歳の孫のゲンちゃんを尊敬するしかない。

ゲンちゃんのパパも車好きだ。去年彼は妻に自動運転のベンツを買った。「僕にもし何かあっても、車で出かけて欲しいからさ。車の練習用に」と言って。こんなに家族思いの優しい息子だったのかと感激した私。喜んで妻はその車を運転していた。それなのに息子ったら、一年も経たないうちに、そのベンツを左ハンドルのAMGに買い替えてしまった。2秒で時速100キロ出るそうだ。ゲンちゃんのママは怖がってもう運転しない。

息子のクルマ愛は止まらない。最近彼はパワーシャベルの講習を受けた。練習したいから中古を買おうかなどと言う。でもそれを運ぶのにトラックも買わなくちゃいけないし、そのトラックとパワーシャベルを入れる車庫も必要だとか。それに掘削の練習用の土地も。

息子は夢を描いているだけかと思ったら、目的に合う土地を見つけ、その持ち主に売ってくれるよう交渉しに行ったのには驚いた。断られたのだが、再度チャレンジする気らしい。

こんなに車好きなのは、息子が小さい時に、ミニカーをたくさん買ってあげたせいかな。 私は、ゲンちゃんにも、うちに来る度おみやげにミニカーを一台あげた。1、2歳くらいのうちは、何を貰っても喜んでいたのに、3歳くらいになると、「これは持っている」とか「扉の開くのがいい」とか言い出した。そこで私はノートにトミカの車のナンバーを百数十まで書き、買ったものに×をつけ、重ならないようにした。結局、世の中で売っている要望通りのトミカとジークは手に入る限り購入して、買うものが無くなった。先日息子がそれらを計ってみたら、25kgあったそうだ。


ミニカーの一部

だからゲンちゃんは、25kg分の車の知識を持っていることになる。私も、購入の為に検索していて、グンベルト・アポロなんていう車の存在を初めて知ったし、ミウラとイオタがほぼ同じということも学んだ。ミニカー終了後には、電車模型をあげているので、それらの知識も蓄積しているはずだ。

だが、ミニカーを次々集めて、これは何、これは何、と車種を言うのは、ゲンちゃんに限らず世界中の多くの子供がやっていることだ。もっとオリジナルなことに挑戦してほしい。自分だけにしか出来ないことを。

そこで、ゲンちゃんに、「クリスマス・ツリー」を作らない?と誘ったら、たちまち乗り気になった。実は、数か月来、ラップの芯、いろいろな箱、日経に挟まって来る広告冊子等、ありとあらゆる「ゴミ」をとってあったのだ。バラの苗木の入っていた段ボール箱はゲンちゃんより背が高いし、クリスマス・ツリーになりそうだ。私が当初頭に抱いていたのは、その箱を解体して他の段ボールと合わせ、ツリーの形にしたものだ。

ところが、ゲンちゃんはこのままが良いと言う。箱の中央部分に持ち手になる穴が開いているのだが、ゲンちゃんはまずそこにラップの芯を向こうまで通るように二本差し込む。「ほら、おばあちゃんはそっちから見てね。ぼくはこっちから」とラップの芯の穴を覗き、お互いに箱の向こうとこっちから相手の目玉を確認する。望遠鏡付きのツリーなのだそうだ。

それからが大変だった。広告紙を葉っぱの形に切り、箱全体が葉っぱで隠れるようにしたいと言うのだ。二人で真剣に作業した。5時にパパがお迎えに来るので、それまでに出来上がってパパを驚かせるのだと、時間を気にしながら必死に葉っぱを切りまくる。

十分な量の葉っぱを切ると、それを箱に貼る。私が糊を塗る係り。ゲンちゃんが葉っぱを貼る係り。ようやく葉っぱを貼り終えると、次はお飾り作りだ。折り紙を折って切り、飾り模様を作る。うちには、厚地の和紙折り紙しかなかったので、数枚重なった紙を切るのは、ゲンちゃんにも一苦労だ。必死に力を入れて、鋏を動かす。星をイメージした黄色の切り紙をてっぺんに貼り、色とりどりの切り紙をあちこちに貼って、とうとうパパが帰る数分前に完成させた。それを台所に運ぶ。パパが帰った時にすぐに見つけられないように。


ツリーのてっぺんには、星をイメージした黄色い切り紙

パパが帰って来た。いつもは元気にお迎えするゲンちゃんが今日はいない。「ゲンちゃんはどこ?」とパパ。「ここだよ!」と台所からゲンちゃんのワクワクした声。そこでパパがそっちに行ってみると・・・・ツリー、その陰からゲンちゃんが飛び出る。「わああ!すごいね。これ、ゲンちゃんが作ったの?」パパは感激して、驚きっぱなしだ。ゲンちゃんは期待通りにパパを驚かせて、喜んで貰って本当に嬉しそう。ぴょんぴょん跳ねている。


出来立てのツリーの前で踊るゲンちゃん

次は、ママを驚かせるのだと、待ち合わせのレストランにまで持って行った。お客さんたちの目が、大きなツリーに釘付けだ。先に来ていたママも「すごーい!」と褒めてくれて、自分の座席の脇に置いた。ツリーも同席の晴れやかなディナーになった。

最初は箱型のツリーなんて変、と思った私だが、出来上がってみると、世界に一つしかない、オリジナルのツリーだ。25kgのミニカーで培った、美的センスが生きているのかな。そして何より、パパとママに見せたい一心で作り上げた優しい心持ちが、ツリーを崇高なものに変えているのだ。正に聖なる樹である。

神よ、この愛しき子とその両親に祝福を!


ラップの芯で出来た望遠鏡付きツリー
Pocket