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新型コロナによる運送業へのインパクト

Shirotaromaru 2021.11.17

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日本での新型コロナウイルス第5波はピークアウトしたようだ。欧米諸国などの感染現状や、第6波の可能性を考えると手放しで喜べる話ではないものの、新規感染者数が減少し多くの人々が安堵したところだろう。緊急事態宣言や行動制限などの縛りの多い生活が緩和され、経済も回り始めたところだが、経営苦に悩む企業はいまだ多くある。

今回は新型コロナウイルスが与えた運送業へのインパクトについて取り上げてみたい。

■物流が停滞したコロナ拡大期

新型コロナが拡大・蔓延し始めた2019年末から2020年半ばまで、物流の減少による人余りが起こった。輸出入が止まり、旅客便や海上輸送が減少したこと、また時短営業や店舗の在庫回転率の悪化など経済活動の停滞により物流が激減したことが主な原因だ。

もともと慢性的な人手不足を抱えていた運送業界だが、新型コロナの拡大期には車両やドライバーを持て余すという、これまでとは真逆の事態が生じていた。外出や外食が制限されたことでネット通販を利用したショッピングが急増し、宅配ドライバーの取扱量は膨れ上がった反面、長距離運送業者は仕事量が縮小した上に運賃の値下げ要求も受け、苦しい状況が続いた。

■中国回復期に始まったコンテナ不足

2020年に入り、世界に先駆けて新型コロナのパンデミックから脱却した中国は景気を急回復させた。自動車や電機などの中国生産量はV字回復を遂げ、また欧米の巣ごもり消費による家具や家電の需要はじわじわと高まり、中国からの対欧米輸出が増加したため欧米向けの海上輸送の需要が急拡大した。

しかし米国では新型コロナ感染者が増加を続けており、カリフォルニア州の港湾作業員の人手不足が原因で荷下ろしなどのコンテナ処理が追い付かない状況に陥った。海上輸送力も減少していたため空のコンテナが滞留し、また現場に導入された厳しい感染対策は輸送が遅延する原因にもなった。米中関係の悪化から貿易摩擦の懸念が台頭し、2019年頃からコンテナの生産を縮小させる傾向にあったことも、状況を悪化させた原因の一つとみられている。

■人材不足による物流の停滞

2020年後半には米国や中国で自動車の販売台数が急回復し、自動車部品の輸出入量が増加した。ほかの国々も新型コロナと対峙しながら経済再生のエンジンをかけ始めたが人の移動制限の解除は一足飛びにとはいかない。旅客便も減少しているため貨物とコンテナの偏在は解消されないままだ。コンテナが不足しているだけでなく米国のロサンゼルス港・ロングビーチ港の海上には接岸できないコンテナ船が大量に長期滞留しているという前代未聞の事態が続いており、解消の気配はいまだ見られない。



このひどい渋滞の主な原因は作業員の人手不足だ。アメリカ政府は新型コロナの経済対策として、2021年9月まで失業給付金の上乗せ措置を行ってきた。多い時で25万円ほどの追加給付金が支払われており、失業手当を受けることを優先し職場に戻らない労働者が増加したと言われている。失業者の復職を妨げ、人手不足の悪化につながるとして22州が6月に上乗せ措置の早期打ち切りを断行している。

給付金の多寡にかかわらず、感染リスクの低い別の職種に就きたいと転職を考える労働者も多い。米国では運送業だけでなく、小売りや製造業、外食など幅広い職種で深刻な人手不足が起きており、短期間での解消は困難だとみられている。

■小売業の悲鳴

運送業のひっ迫はどのような問題を起こしているのか。米国内では、配送の遅延や商品の在庫切れが常態化し始めている。 11月下旬からのサンクスギビングホリデーを控え、クリスマス商戦が本格化するところだが充分な在庫が確保できないという事態が予測されている。商品が米国に届いていてもまだコンテナの中だ。接岸するまで長時間がかかり、荷下ろしも遅れ、陸運も遅れ、棚卸も遅れている。またアメリカ国外でも、米国からの商品が届かないという事態が発生している。

通例では11月終盤のブラックフライデーセールを利用してクリスマスギフトを購入する消費者が多いのだが、今年は様相が異なっている。欲しい商品を見つけたらすぐに買わないと、再び入荷するまで長い時間がかかる可能性が高いからだ。 小売業界からはリベンジ消費への期待が高まっているこのタイミングで、販売機会を失うことになるのではと危惧する声が溢れかえっている。

■のしかかる原油高

ここ最近の原油高も更なる重石となっている。ガソリン・軽油価格が高騰したことで輸送コストが大幅に上昇し、運送事業者の経営を直撃したのだ。今回の原油高の背景には、脱炭素社会推進策による天然ガス価格の高騰や、2021年から2022年にかけてのラ・ニーニャ現象による北半球の厳冬予想、OPECプラスの増産見送り、為替水準など複合的な問題があり、短期的に収束するものではないことがうかがわれる。コロナ禍での運賃交渉は非常に厳しく、長距離を走るほど経営が打撃を受けるという状況だ。

日本政府は11月、原油高が経営を圧迫する農業・漁業、運送業に対しての支援を検討すると発表した。具体的な対策を早急に求める声が高まっている。

■世界的なインフレの傾向

米国ではコスト増を価格に転嫁する動きも出てきた。中国からの輸入品はこの1年で大きく値上がりし、日本の100均に該当するダラーショップでは既に1ドルで販売できる商品の方が少なくなっている。 また、日本国内でも米国産の小麦や牛肉、油脂製品などの価格が悪天候などの原因も重なり大きく上昇しているのはご存知の通りだ。 2021年10月のアメリカ消費者物価指数は前年同月比6.2%の上昇と、約31年ぶりの高い水準を示した。インフレ圧力は金利相場にも大きな影響を与え、ひいては為替相場も左右することとなる。

新型コロナウイルスの物流に与えた影響はこれほどまでに大きく、米国西海岸の問題は対岸の火事で収まらず世界経済にも飛び火している。バイデン米大統領はインフレ改善を最優先事項とし、人々の懸念を解消するために力を尽くすと表明した。 物流の混乱の解消のため、アメリカ政府は先月からロサンゼルスの港湾に24時間体制での操業や、大手運送会社の夜間配送量を増やすよう求めている。新型コロナによる物流の混乱は、運送業だけでなく今後の経済情勢に影を落とす可能性がある。
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