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日本でも義務化された職場でのメンタルヘルスケア。欧米との違いは?

焔(Homura) 2021.11.01

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過去のブログでもメンタルケアについてはカウンセラーの立場で何度か書いてきました。心理カウンセリングやメンタルヘルスに関して日本は欧米よりも50年遅れていると言われています。例えば欧米では1980年頃から、職場のメンタルヘルス問題が経済成長を止めてしまう要因として「国家レベルで」認識されています。

また、個人レベルでも欧米の富裕層のほとんどはプライベートなセラピストやドクターを抱えています。その背景にあるのは日本人と欧米人のメンタルケアに対する「ハードルの高さ」と「必要性の認識」にあると個人的には思います。

日本では心理カウンセリングは「心が病んでメンタルケアが必要」な人が受けるものという認識が強いですが、アメリカではあくまで予防として「心の調子を整えるために」定期的なセラピーを受ける人がほとんどです。

それでも最近日本でも、組織を活性化させる「ポジティブメンタルヘルス」ついて語られることが多くなってきています。 また、欧米では職場のメンタルヘルスに対する取り組み方は異なります。いろんな国の取り組み方から日本が学ぶべきことは多いのではと思います。

■アメリカで普及している職場のメンタルヘルスケアEAP制度(従業員支援プログラム)

アメリカにおける職場でのメンタルヘルスケアの大きな特徴は個人への対策を軸に行われている点でしょう。日本でも職場における個人へのストレスチェックは義務化されましたが、そもそもアメリカは文化的な背景が大きく異なります。特に人種問題や差別問題などに対する意識が高い国ですので、取り組み方や支援プログラムの制度の内容も異なってきます。

EAP制度(従業員支援プログラム)が生まれたのアメリカですが、その背景には1950年代にアメリカで大きな社会問題となったアルコール依存症があります。第二次世界大戦の直後ですが、極度のストレスを抱えた帰還兵士たちがアルコールに溺れたりうつ病問題を抱えるようになりました。そのケアに向けて指導したのがこのEAP制度でした。現在はその活動領域は非常に幅広くなってきています。例えば産業保健心理学の専門家が職場の物理的な環境を改善する計画を作ったりしています。

また、最近注目されているのが発達障害者の方などへの対策です。特定の領域で高い能力を持っていても職場ではうまく働けない、そんな人達に対するメンタルケアです。この辺りが個人的に感じる日本の支援システムとは大きく異なると部分です。

「個人が組織に合わせられるよう」支援するのが日本のシステムであれば、アメリカではその発想は全く逆で「個人に合わせるように働き方や職場環境を変える」

アメリカという国はそもそも言語や文化そして国籍が異なる人々が集まっています。そこで経営者や企業のトップに求められるものは、何かを排除する考え方ではなく、いかに一緒に仕事をしていくかという考え方だと思います。

■EU各国によって進められる職場改善活動

ヨーロッパでは1989年に職場でのメンタルヘルスへの対応が求められるようになりました。また、EU各国では運用方法は異なりますがイギリスや北欧の各国では、ストレスリスクを取り除くための職場改善活動を行うことが法律で義務付けられています。この統一されたリスクマネージメント方法のガイドラインはPRIMA‐EF、と呼ばれます。特にデンマークでは従業員が一人でもいれば全ての企業に適用されるという徹底ぶりです。

PRIMA‐EFのフローが完全にPDCA化されていることもあり、職場における大きなメンタルケアに役立っています。具体的にはメンタルヘルスを阻害する可能性のある職場での心理的リスクや要因をアンケートの後で洗い出します。そしてそこでメンタルを悪化させる要因が見つかれば改善する行動計画を立てて実行する、という仕組みです。

また、EU盤のガイドラインでは職場のストレス原因の一つとして「個人の才能や能力を効果的に発揮できる機会がない」ことなどが挙げられていますが、これは日本の企業にも当てはまるものではないでしょうか?

そもそも欧米とは文化的背景も大きく異なる日本ですが、職場環境の改善や従業員への支援は、企業の業績という面で考えても効果あるのがメンタルヘルス対策です。

日本で義務化されたストレスチェック(職場環境の改善や集団分析)は「努力義務」とされていますが、過度なストレスから欠勤者が出るなど具体的な問題が発生する前に積極的に行って欲しい対策だと思います。
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