ターキーのない日本のクリスマス、その文化背景を語ったハーバード大テッド・ベスター教授
焔(Homura) 2021.10.28
https://www.kfc.co.jp/
早いもので2021年もあと2ヶ月。クリスマスのシーズンが近づいてきました。日本でのクリスマスといえば、よく目にするのがケンタッキーフライドチキンのCMだったりします。アメリカに住んでいた頃は当たり前のようにターキーを頂いていたわけですが、今でもよく海外の友人に聞かれるのが「日本でのクリスマスの過ごし方」です。
そこで私が日本ではよくケンタッキーフライドチキンを食べるという話をすると、ほとんどの人から「なぜターキーではなくチキンなのか?」そんな質問を受けます。そもそもアメリカにはない文化ですので、日本におけるクリスマス事情を説明してもなかなか伝わらないこともしばしば。その昔テレビで流れていたケンタッキーのCMに使われていた「ケンタッキーの我が家」のBGMですが、アメリカで育った人間であればこの曲がクリスマスソングでないことは誰もが知っています。
実はこの日本でのクリスマス=ケンタッキーフライドチキンを食べる、という習慣は1970年代からKFCが繰り広げてきたキャンペーンに由来しているようです。また、「パーティバーレル」の注文が殺到する日本のクリスマスですが、そこにある文化が定着した背景…実はさまざまな諸説が存在します。
■日本の社会文化研究者が語ったクリスマス文化
私が住む横浜のKFCで今でも見られるのがサンタの格好をした実物大のカーネルサンダース人形です。クリスマス期間中は全国のお店でもお目にかかれるかもしれません。このキャンペーンが始まったのは1980年代ですが、12月23日から店舗前には「パーティバーレル」を求める行列が出来始めるようになりました。チキン料理が日本のクリスマスの定番になったのはこの頃、日本の高度経済成長期まで遡ります。ちょうどその当時はアメリカが文化大国だったこともあり、日本では西洋の食べ物や海外旅行に対する大きな関心が集まりました。日本社会文化を専門とする研究者、米ハーバード大学のテッド・ベスター教授の数々の著書でも触れられています。そんなベスター教授ですが、どんな人物だったかと言いますと
・2000年 アメリカ人類学協会東アジア研究分科会を設立
・2012年 最大のアジア研究組織であるアジア研究協会会長
・2016年10月に公開されたドキュメンタリー「TSUKIJI WONDERLAND(築地ワンダーランド)」の製作コンサルタント
と、もしかすると私達日本人よりも、日本の食文化やその背景に関しては詳しい方でした。
■クリスマスにチキンが食べられるようになった本当の文化的背景は?
テッド・ベスター教授の著書でもこのように触れられています。「日本の経済力が急激に伸び、国民は初めて消費文化に没頭する金銭的余裕ができた」
1970年代の初めに東京に住んでいたべスター教授はミスタードーナツなど外国のチェーン店が次々に店舗展開していく現象を目の当たりにしたそうです。KFCの1号店は1970年に名古屋でオープンされています。その後毎年30店舗の割合で開店が続き、1981年には全国で324店舗まで増えることとなりました。その当時は日本では「家族でクリスマスを祝う」という習慣はまだ普及していませんでした。そこに目を付けたのがKFCで「クリスマスにはケンタッキー」そんなキャッチフレーズで大掛かりな宣伝キャンペーンをはじめ、それに伴い「パーティバーレル」の販売が開始されました。
この仕掛けがブレイクした本当の理由は定かではなく、諸説が存在します。ですので私自身も海外の友人に「日本のクリスマスとKFC」について語る際はこの辺りはあまり説明しないようにしています。
どんな説があるかと言いますと…
・KFCの日本法人創業期の経営者が売上を伸ばす目的で「アメリカでもクリスマスにはチキンが食べられている」と宣伝した
・KFC公式サイトでは「経営者だった大河原氏がサンタの格好をしてクリスマスパーティーに出かけた際、喜ぶ子供たちの顔を見て勝機を見出した」と説明されています
さらに2017年在日米軍が制作したとあるテレビ番組でKFCに詳しい人物がインタビューを受けています。そこで語られているのは「アメリカ人の客がクリスマスの日にサンタのコスチュームを着てチキンを届けて欲しいという依頼があった」ことがきっかけでこのコンセプトが根付いて日本の文化となった、そんな内容です。
クリスマスシーズンになると当たり前のように人々が殺到するKFCですが、半世紀が経った今でも日本で育ったこのクリスマスの食文化は続けられています。そして毎年のように海外の友人から同じ質問を受ける私ですが、未だにこの「なぜKFC」がクリスマスの定番になったかという部分に関しては答えに困ってしまいますね。