植物に心はあるのか? ―国立科学博物館「特別展・植物」に行って―
Mimi 2021.08.30
PLANTONE(プラントーン)というエポック社のおもちゃをご存じだろうか。外箱には次のように書いてある。
植物には、私たちと同じように感情があるのでしょうか?
また、植物どうしでコミュニケーションをとっているって本当なのでしょうか?
(中略)
植物のキモチがわかったなら・・・・
そんな夢に一歩ちかづくものが、この「PLANTONE」です。
「PLANTONE」 プラントーン
仕組みは簡単で、クリップを葉にはさみ、アース棒を土に差し込むだけだ。
このおもちゃのコンセプトは、植物の中で起こる小さな電気的変化を音と光に変換することだ。様々なメロディで、植物ごとの違いを知ることもできるし、同じ植物でも、話しかけたり、水をやったりした時の変化、朝夕の状態の違いなどを把握できる。
私は、この装置を買った時、いろいろな植物に試してみた。そして、植物が実は大変なおしゃべりだと言うことを知った。例えば、雑草は、近くの雑草を抜いたりすると、たちどころに動揺して騒ぎ出す。「大変、大変、引き抜かれちゃうよ!」と叫んでいるかのよう。だが、本当に植物に気持ちってあるのかしら?と半信半疑で、所詮おもちゃと片付けていた。
Little Shop of Horrors
植物の気持ちに関しては、オフ・ブロードウェイのミュージカル、Little Shop of Horrors を思い出す。花屋に勤める若い男が、珍種の植物を入手。実はそれは食「人」植物で、どんどん大きくなるにつれ、餌(人間)の要求も高まる。 “Feed me!” と実際に太い声を上げるのだ。陽気で楽しいミュージカルの曲に乗って繰り広げられる、いともおどろおどろしい世界。それを見た時にも、非現実のあり得ないお話として楽しんだ。
以上二つの体験が蘇ったのが、国立科学博物館で開催中の特別展、「植物―――地球を支える仲間たち」だ。ちらしには次のように書いてある。
ともすれば動物と違い、じっとしていて動きのないイメージがありますが、最先端の科学研究によって私たちの想像を超えるアクティブな生態が明らかになってきました。
特別展のチラシ
例えばキャベツの防衛機能。モンシロチョウの幼虫に葉を食べられたキャベツは、特別な香りを出して、アオムシを殺す寄生ハチを呼び寄せ、アオムシを駆除する。更に、キャベツは、自分を食べる虫の種類によって違う香りを出して、今食べている虫の天敵を呼び寄せることが出来るのだ。
実際に鉢を傾けたりしても植物が上を向いて伸びるのを経験して来ているが、これは植物に「重力感覚」があるせいだそうだ。
鉢の下向きにしても、植物は上に向いて伸びる
擬態も得意だ。ユキモチソウは、花がキノコに擬態したのみか、匂いまでキノコに似せて、虫を呼び寄せ花粉を運ばせる。蘭の仲 間のドラクエも同様だ。唇弁がキノコの形をしていて、虫を呼ぶ。同じ蘭の仲間には、アブラムシの匂いを出して、天敵のハナアブを呼び寄せ、花粉を運ばせる。つまり、特定の花と特定の虫とがセットになって、種を保存しているのだ。
ダーウィンの蘭と呼ばれるアングレム・セスキイペダレは、長い距を持つ。ダーウィンは、それに見合う長さの口吻を持つ虫の存在を予言した。実際にその虫「キサントパンスズメガ」が予言の40年後に発見されたのだった。
展覧会で、実物の花の長い距と、実物のスズメガの長い口吻とを目の当たりにすると、生命の神秘に驚嘆するしかない。
花の長い距に合った、長い口吻を持つ虫の存在をダーウィンは予言した。予言の40年後に発見されたその虫が、展示されている。
単に種の保存を目指すだけではない、固体そのものの安全も植物は確保する。ボンボリトウヒレンは、半透明の白い苞が花を包み、外の寒さから保護する。
ボンボリトウヒレンは、外側の苞が保温のセーター替わり
苞に守られた花の様子
そして何と言ってもワクワクしたのは、Little Shop of Horrors そのものの、食虫植物である。ハエトリソウの、実際に動く100倍模型が本物と一緒に展示してあり、ミュージカルの舞台に登場した食人植物のようだ。人間ならぬ巨大ハエがとげの間に入り、封じ込められていくのが見える。これまでは、あり得ない話として見ていたミュージカルが、突然自分の身に迫って来たかのような怖さを覚える。
100倍のハエトリグサの模型
この展覧会で、私は、植物に心がある、少なくとも天性の優れた知性を持ち合わせている、ということを思い知らされた。むしろ、人間である自分の方が植物に劣る非力な存在であると認識したのである。
明日からは、庭の植物に水を撒く時に、「水をやる」とは言わず、「水をさしあげる」と言うことにしよう。