Blog
Blog

薔薇に捧げる時間

Mimi 2021.05.25

Pocket

5月は薔薇の季節!ステイホームの退屈しのぎに再開した薔薇栽培。
毎朝ご機嫌伺いをしているうちに、とうとうちっちゃな蕾がこっちにもあっちにも出てきて、膨らんで、膨らんで―ついに咲いた!

日を追うに連れPROFUSIONとかABUNDANCEという言葉がぴったりなくらい沢山咲く。



毎朝、籐のバスケットを持って「薔薇園」と私が呼んでいるベランダに出て、水をやるついでに、その日咲いたり、咲きそうだったりする薔薇を切る。
これが野菜なら、食べきれないくらいバスケットは山盛りになる。



リビングに持ち帰った薔薇を、アレンジするのも楽しい。
あたりに立ち込める馥郁として濃厚な薔薇の香り。お花屋さんの薔薇の花にはない良い香りだ。



3月に入ってから2週に一度、害虫避けの薬と病気予防の薬を調合してスプレイし、可愛がって育てた薔薇。
雨に弱い品種は、雨が降る度に屋根の下に持って行った。日光が十分当たるように、鉢を回したり、移したり、入れ替えたりもした。その結果がこの饗宴だ。

 C’est le temps que tu a perdu pour ta rose qui fait ta rose si importante.
(君の薔薇をかけがえのない物にするのは、君がその薔薇に費やした時間の為なんだよ。)

Le Petit Prince(『星の王子様』)の中でキツネは王子様にこう言ったんだっけ。

アレンジした薔薇の写真をLINEで「お姫様クラブ」のお嬢様達に送ったら、早速智絵ちゃんが、「今ちょうど『星の王子様』のバラのページを読んでいました」と写真を送ってくれた。



智絵ちゃんが更に送ってくれた写真で、おぼろだった記憶が蘇った。
そうだ、自分で水をやり、自分で覆いをかけ、毛虫を取り、不平を聞いてやり、大切に育てたからこそ薔薇はかけがえのない存在になったのだ。



そんなところから、私が「努力と愛情を注ぎこめば、薔薇がきれいに咲いてくれるように、人間も真摯に接すればそれに応えてくれるのだ、と作者が言いたいのでは?」
と書くと、智絵ちゃんも「確かにそうですね。生活の中の色んな場面や、人生の節々での思い出にしたい文ですね。わたしもこの物語の核心と、愛され続けている本当の理由が分かった気がします。」
と書いて来た。
もう長いこと会っていない智絵ちゃんだけれど、こんな所で心が通じて嬉しい。

私には、サン・テクジュペリのような名言は無理だが、今回薔薇を育てていてノートに書きつけたことがある。

「バラを育てていて気づいたこと」
・持って生まれた素質を変えることは出来ない。
   小輪形の花を大輪には出来ない。
   黄色の花をピンクには出来ない。
   香りのない品種を香り付きには出来ない。
   一季咲を四季咲きには出来ない。
・水は土が乾いてから。あるいはちょっとクタンとなってから。
・肥料は適当に。少な目がよし。
・殺菌剤、殺虫剤を撒かなければ良い花は望めない。

冒頭の項など、当たり前すぎることなのだが、薔薇を育てていて身に染みて感じたのだ。
自分のことにせよ、人のことにせよ、「こうなりたい」とか「こうなって欲しい」という欲求はあっても、本来の性質を変えて別人にすることは出来ない。
だが、愛情を持って水と肥料と消毒の手間をかければ、薔薇はそれぞれの花を精一杯咲かせることで応えてくれるのだ。

私の薔薇のアレンジ熱は3歳の孫のゲンちゃんにも伝染した。
パパとママと自分にアレンジを作るのだと、大きな紙袋を持ってベランダへ。
「これをひとつ」「これをふたつ」「これはみっつね」とそれぞれの薔薇を指さして数を指定するので、私は言われた通りの数の薔薇をカットして紙袋に入れていく。

「お顔みたいなお花をみっつね」と言うので指さす方を見ると、黄色いパンジーだ。
その他にもマーガレット、ミヤコワスレ、フリージアなど、いろいろな花を集めると、早速アレンジメント作りに取り掛かった。
私は、ジョロ型の三つの容器にオアシスをセットしただけ。ゲンちゃんは真剣そのもの。

2時間近くかけてとても可愛らしいアレンジメントを作り上げた。
一つの花も残らない。お花を選ぶ時から頭の中に構想があったのだろう。出来上がりを見ると、ゲンちゃんなりに、しっかり考えてパパ、ママ、自分にふさわしいアレンジをしたことが分かる。



次には、「パパ、ママって書きたいから、点々を書いて」とラベル用のプラスチックの板を指して言う。
表にひらがな、裏にカタカナで点々の下書きを書くと、マジックで一所懸命なぞる。
プラカードを立てて完成。見ると、黄色いジョロには青いプラカード。青いジョロには黄色のプラカードを選んでいる。こんなところにも気を使っているのだ。



アレンジメントと一緒に記念写真を撮ることになった。
大好きなパパとママとずっと一緒にいたいのに、お仕事が終わる夕方まではおばあちゃん(私)と過ごさなければならない。
それをゲンちゃんは運命と諦めている。でもゲンちゃんは、寂しい顔をするとパパとママが悲しむだろうと思うから、精一杯の笑顔で写真に写ろうとする。
私もそのいじらしい気持ちに気づかないふりをして、明るく「ほら、撮りますよー!にっこり!」とスマホを構える。
ほらね、自分の作った薔薇のアレンジメントを抱える、幸せそうなゲンちゃんの写真が撮れた。



キツネの替りに、私は心の中でゲンちゃんに言う。
「君の薔薇をかけがえのない物にするのは、君がその薔薇に費やした時間の為なんだよ。」



Pocket