学力比較―世界と日本
Shirotaromaru 2021.05.25
子どもたちの学力にまつわる問題は、古今東西に共通する大きな課題の一つだ。
日本ではもともと遅れがちと言われる英語教育への積極的な取り組みに加え、昨今のコロナ禍でいっそう不可欠なものとなったICT技術の導入が強く求められている。
日本の子どもたちの学力は世界各国と比較してどの程度の水準に達しているのか、また改善を要するのはどのような点かなどについてまとめてみた。
学習到達度調査「PISA」
子どもの学力水準を測ろうとする際に、OECDの実施するPISA(Programme for International Assessment)が一つの指標となる。文部科学省によるとPISAは「義務教育の修了段階において、これまでに身に付けてきた知識や技能を実生活の様々な場面で直面する課題にどの程度活用できるかを測る」調査であり、国際比較することで教育方法の改善や標準化に役立てられるとされている。
多くのOECD加盟国で義務教育が終了する15歳児(日本では通常高校1年生)を対象に、主に読解力・数学的リテラシー・科学的リテラシーの3分野について3年ごとに調査が行われている。
PISAの調査結果は文部科学省の制定する新学習指導要領にも影響を与えており、教育現場において常に注視される指標と言っていいだろう。
それぞれの分野について、文部科学省が要約した定義は次の通りだ。
①読解力・・・自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、効果的に社会に参加するために、テキストを理解し、利用し、評価し、熟考しこれに取り組むこと。
②数学的リテラシー・・・様々な文脈の中で数学的に定式化し、数学を活用し、解釈する個人の能力。それには、数学的に推論することや、数学的な概念・手順・事実・ツールを使って事象を記述し、説明し、予測することを含む。この能力は、個人が現実世界において数学が果たす役割を認識したり、十分な根拠に基づいて建設的で積極的、思慮深く判断・意思決定したりする助けとなるもの。
③科学的リテラシー・・・科学的な考えを持ち、科学に関連する諸問題に関与する能力として、「現象を科学的に説明する」こと、「科学的探究を評価して計画する」こと、「データと証拠を科学的に解釈する」こと。
出典:文部科学省ホームページ ttps://www.mext.go.jp
日本におけるPISA結果の推移
PISAの調査が始まった2000年では、日本は数学的リテラシー1位、科学的リテラシー2位、読解力8位とOECD加盟国の28か国でトップクラスの成績を収めていた。しかし2003年は科学的リテラシーで前回に引き続き1位という好成績を収めたものの、数学的リテラシーが6位、読解力は14位と順位が急落した。
また2006年には全ての分野で順位を落とし「PISAショック」と呼ばれるほど大きな話題となり学力低下を案じる声が高まった。
この結果を受け文部科学省は「ゆとり教育」を見なおし、授業時間や内容を増やしたり、全国学力テストを復活させたりするなどの「脱ゆとり教育」へと政策転換を行った。
では、現在の順位はどうだろう。79の国・地域で行われた2018年の調査では、数学的リテラシー6位、科学的リテラシー5位、読解力リテラシー15位という順位となった。
(※2021年の調査は新型コロナの影響により2022年に延期)
2018年の結果から読み解く課題
数学的リテラシー及び科学的リテラシーは、調査開始以降の長期のトレンドでも安定的に高いレベルを維持できていると言えるだろう。課題となるのは読解力だ。OECDの平均値よりは高い得点グループに入っているが、平均得点・順位が低下する傾向にあり長期的な見方では、統計的に有意な変化が見られない「平坦」タイプと分析されている。
特に自由記述形式の問題が苦手とみられており、日本の学生たちには「明確な根拠をもとに自分の言葉で意見を論じること」に課題があると報告されている。
読解力を高めるために必要なこと
PISAで問われる読解力(以下PISA型読解力)は、グラフや図なども含めたテキストをうまく活用して情報を正確に取り出すだけでなく、自分の経験や知識に基づいて自分なりの解釈・熟考・評価を行い、論述することも求められる。文部科学省はPISA型の読解力の向上のため、3本の柱からなる「読解力向上プログラム」をまとめた。
①「読む力」を高める取り組み
書き手の意図を見抜き、根拠や理由を明確にして内容と表現や構成についての自分なりの考えを持ち評価しながら読む力を高めていく
②自分の考えを「書く力」を高める取り組み
内容を要約したり紹介したりすることで、自分の意見を簡潔にまとめ、書く力の向上を目指す
③様々な文章や資料を読む機会や、自分の意見を論述する機会の充実
読書活動を推進したり、新聞や科学雑誌の記事など幅広い読み物に触れる機会を増やしたりすることに加え、自分の考えを述べたり書いたりする機会を増やし、表現する力を育てていく
その他の課題
読解力の伸び悩み以外では、低得点層が増加していることも懸念材料の一つだ。習熟度レベルが低い生徒をいかに引き上げ、平均値を上昇させられるかも取り組むべき課題とされている。また、日本の学習環境におけるデジタル機器の利用は他国と比較してかなり低調であり、インターネットを活用して必要な情報を取り出すスキルも不足しているという結果から、ICT環境の早急な整備と情報活用能力の育成も重要と考えられている。
重ねて、経済的要因による教育格差の縮小や、教員の増員や処遇の改善など教職員の質の向上のための取り組みについても議論が必要とされている。
PISA2022
次回のPISAでは数学に焦点を当てたテストが行われる予定だ。論理的な考え方や問題解決につながる「コンピューテーショナル・シンキング」に注目した問題が新たに出題されると報じられており、今後国際的にコンピューターサイエンス分野についての学力が重視されるということが読み取れるのではないだろうか。PISA調査は数値だけが全てではない。ランキングにこだわらず、子どもたちが学習で獲得した知識を活かし、伸び伸びと生きられる社会をつくることができるよう、楽しく自由に学べる教育環境を提供するための道標として活用されることが求められている。