コロナ禍の中学受験
Shirotaromaru 2021.04.30
小学校の低学年から中学受験の準備を始める子どもたちは増加傾向にある。
大手学習塾の四谷大塚によると、2021年度の一都三県の中学受験者総数は5万2千人を超えたと報告された。同地域の小学6年生の人数と照らし合わせると約17.5%が中学受験に取り組んだということになる。
緊急事態宣言など今までにない状況の中で学校や塾はどのような対策をし、新型コロナは中学入試にどのような影響を与えたのかをまとめてみた。
学習塾の対策
緊急事態宣言が下された際、多くの学習塾は即座にZoomなどの動画アプリを用いたオンライン授業の体勢を整えた。オンデマンドの動画配信を行った塾もあるが、大手学習塾のほとんどはパソコンやタブレットで授業に参加でき、その場で質問もできる双方向のオンライン授業を行った。緊急事態宣言が解除された今も、対面授業に加えてオンライン授業の利用が可能である学習塾が多い。対面授業を行う場合も、手指の消毒やマスクの着用・検温の義務化に加え、教室内の人数制限や授業時間の調整、飲食の制限などしっかりとした感染対策を行っている。
定期的に行われる模試についても、実施時間をずらすなどさまざまな感染対策をとった上で緊急事態宣言下でもほとんどは予定通り継続されていた。
受験者数は減った?
新型コロナウイルスの影響による失業者数の増加やサラリーのカットなど、家計に大きなダメージを受けた家庭も少なくない。2008年のリーマンショック時のように、経済的な理由によって今年度の中学受験者数は減少するだろうという予想が大勢だったが、いざふたを開けてみると受験者数は前年度とほぼ変わらないという結果だった。受験生を受け入れるに際し、各受験校はさまざまな感染対策を行った。
一時帰国が困難な海外在住の受験生向けにオンラインでの試験を実施したり、一般入試でも面接を中止して記述方式に変更したりするなど、対面での試験を極力減らす対応がとられた。
試験会場についても定期的な換気や間隔を広く開けた座席の設置だけでなく、各座席にアクリルパネルを設置する学校もあったようだ。
開成中などの私立中学では新型コロナ陽性者のために別日での試験を設けるなどの措置を取るところもあり、都立中学においては別日の試験日は設けなかったものの、濃厚接触者とみなされた受験生でも抗原検査が陰性かつ無症状であれば別室での受験を可能とするなどの特別措置が取られていた。
受験校選びへの影響
緊急事態宣言下の臨時休校などの影響で、準備不足に陥った受験生も少なくなかったようだ。上位校への記念受験や腕試し受験は例年より減少し、通常より安全志向が強まったとみられている。志望順位の高い学校や上位校への合格を目指して何度も入試を受け続けるような動きは近年減る傾向にある。2021年度も、合格の可能性の高い適正レベル校に合格したら早めに受験を終わらせた受験生が増加したと思われる。
今年度は名前がよく知られているいわゆる「伝統校」の人気が高まったようだ。新型コロナの影響で受験者やその保護者が学校を訪問する機会が失われ、オンライン開催の学校説明会で情報を収集するケースが増えたことが理由の一つであると考えられている。
臨時休校期間中に早期にオンライン授業が導入されたICT(Information and Communication Technology = 情報通信技術) の充実している学校の人気はますます高まったようだ。新型コロナウイルスの終焉の見えない中で、リモート学習という選択肢は必須のオプションになりつつある。
また感染リスクの軽減という意味でも、自宅からの通学のしやすさも例年以上に重視されたと言われている。
今後の中学受験の見通しは?
受験者数の増加傾向は変わらなさそうだ。コロナ禍の今だからこそ、見通しのきかない世をたくましく生き抜くために良質な学習が受けられる学校を求める熱は高まるばかりだ。一方でここ数年過熱していた首都圏の大学付属校の人気は新型コロナの影響でピークアウトするのではないかと見る学習塾関係者も少なくない。一般的に大学入試の動向が中学受験に大きな影響を与えると言われるが、親元から離れ首都圏の大学に通う学生たちが新型コロナによる臨時休校で学習どころか学生生活がままならない姿を目の当たりにして、地元志向が強まる可能性があると考えられている。
また今後は帰国生だけでなく、一般入試についてもオンライン入試の可能性を検討する動きがあると言う。新型コロナは中学受験だけでなく、日本の教育環境に大きな変化をもたらすことになりそうだ。
2021年度の入試の中で、時事問題として新型コロナを取り上げた学校もあった。このコロナ禍をどのように生きるか、そして未知のウイルスにどう対峙していくかを問うものが多かったようだ。
中学受験で求められるものは知識だけではない。未来に向け、自分の目で見て耳で聞き、それまで培った基礎力を活かして自ら考えることができる「思考力」を持った人物が求められている。
来年度以降の中学入試にも、新型コロナの影響は少なからずありそうだ。苦境の中でも目標を見失わず学び続けることができるかが、合格をつかみ取るための必須条件であることは間違いなさそうだ。