半導体不足の原因と半導体関連株の動向
Shirotaromaru 2021.02.19
生活を支える半導体
「半導体」という言葉を聞いて何を思い浮かべるだろうか。パソコン?スマートフォン?実は半導体は、炊飯器やエアコンなど生活家電や自動車にも数多く搭載されており、現代の快適な暮らしに欠かせない存在となっている。
昨年から起きている世界的な半導体不足と、その中で注目されている半導体関連株の見通しについて触れてみたいと思う。
半導体不足の原因は?
まずは世界的な半導体不足が起こった原因を探ってみよう。新型コロナウイルスの感染拡大により、通勤・通学を必要としないリモートワークやオンライン授業が世界的に広がった。多くの企業や人々がインターネット環境を整備し、パソコンや周辺機器・デジタル家電を購入したことでパソコンなどに搭載する半導体の需要が急速に高まった。
そのため半導体メーカーは、新型コロナの影響で販売台数が落ち込み生産ペースを落としていた自動車向け半導体の生産を減らし、パソコンやスマートフォンなどに搭載する半導体の生産比率を増やしていたのだ。
しかし他国よりも一足早く経済活動を再開させた中国で、自動車販売台数が予想より大きく回復した。コロナ禍での安全な移動手段として自動車が見直されたことや、EVなどの新エネルギー車両の購入に補助金が提供されるなどの購入促進政策が行われたことが主因と考えられている。米テスラが現地生産する富裕層向けの小型EVや、米GM社の合弁企業である上汽通用五菱汽車の低価格EVなどが売れに売れている。
パソコンやスマートフォン向けの半導体生産に比重を傾けていた半導体メーカーは、軌道修正した自動車メーカーからの受注増に対し即座に対応することができず、自動車向けの半導体が不足する事態に陥った。また米政府による中国企業への制裁により半導体の調達先が限られてしまったことも事態を悪化させる一因となった。
今や半導体メーカーが最大限の稼働をしても、受注から納入まで数か月から半年ほどかかると言われており、半導体不足が原因で各自動車メーカーは工場の停止や減産など生産の調整を余儀なくされているのが現状だ。ブルームバーグ社は、半導体不足による自動車メーカーの収益の減少額が2021年で最大610億ドル(約6兆4000億円)に上ると予測している。
自動車業界からの声を受け、2021年1月末には日米独など各国政府が台湾当局に半導体増産の異例の協力要請をしたと報じられた。それだけ状況は深刻だということだろう。
半導体市場の見通し
半導体不足の状況は長引くだろうとの見方が優勢だ。要請を受け、半導体世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)や世界第4位の聯華電子(UMC)などが増産の態勢を整えると発表したが、工場の増設など生産能力の拡大には時間がかかる。また新型コロナウイルス感染拡大の影響が未知数で、需要の予測が難しく安易な増産にも踏み切れないため、短期間での需給改善には至らないとの見方が多い。半導体メーカーと自動車メーカーの価格交渉においては、今後は半導体メーカーが主導権を握ることになりそうだ。TSMCはこれまで利益率の低かった自動車向け半導体について15%の値上げを検討していると報じられた。
5G関連製品やEVの普及なども、今後の半導体関連企業の存在感をますます増大させると考えられる。
上昇基調の半導体関連株式
半導体関連株式の値動きを計る代表的な指数として、フィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)がある。半導体の製造や流通・販売を行う企業30社で構成され、米国のフィラデルフィア証券取引所が公表している指数だ。一般的に半導体の需給は景況感に左右されることから、景気の先行指数とも呼ばれており、昨今の半導体需給を反映して上昇を続けている。日経平均株価とSOX指数の動きを指数化して比較したチャートを確認してみよう。2020年2月を0として、2021年2月5日までの約1年間を比較したものだ。(日経平均株価:オレンジと緑のライン/ SOX指数:オレンジのライン)
日経平均株価は約23%の上昇、SOX指数は約61%もの上昇という結果を示している。
TradingView提供のチャート
半導体市場の好不況を「シリコンサイクル」と呼ぶ。AIやIoT、産業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)化など、半導体需給を牽引する要素が事欠かない近年は「スーパーサイクル」と表現されるようになった。米中摩擦などの影響で、2019年には減速局面に移行したとみられたが、ここにきて需要が再拡大したことでスーパーサイクルに再び突入したという見方も多い。WSTS(世界半導体市場統計)は、2021年の世界半導体市場規模が前年比8.4%増の4,694億ドル(約49兆円)と過去最高を更新するとの予測を発表した。
半導体関連企業の業績の好調さや世界的な電子化の流れから、株価は引き続き堅調と予測されている。半導体関連株は、今後も大きな成長を期待できるセクターと捉えることができるのではないだろうか。