

富裕層が利用する信託銀行サービスとは
渡辺 智 2021.01.26

皆さんは信託銀行を利用したことがあるだろうか?信託銀行については、存在は知っていてもなかなか利用する機会がない方もいるだろう。
特に、富裕層ではない資産形成層の場合、信託銀行を使ったことがある人はほぼいないだろう。
しかし、富裕層の中には一般の銀行より信託銀行を頻繁に利用している方もいる。
ではなぜ富裕層の中には信託銀行をこよなく愛している層が存在するのだろうか?
それはズバリ信託サービスが富裕層の心をくすぐるからだ。そこで今回は信託とは何かについて1からわかりやすく説明をする。
富裕層であれば一度は使ってみるサービスになるのでぜひ参考にしていただければ幸いだ。
信託とは
信託とは、委託者(依頼する人)が信託行為によって信頼できる人(受託者)に対して、金銭や土地などの財産を移転し、受託者は委託者が設定した信託目的にしたがって受益者の為に、その財産の管理・処分などをする制度のことだ。信託法の抜本的な改正(2007年9月30日施行)により、多様な信託契約が可能となった。
信託を活用すると、今までできなかった財産の承継が可能になる。
信託の基本的な用語の説明
信託についてしっかり理解するためには、信託独特の用語についてしっかり理解する必要がある。この章では信託の基本的な用語について説明をするのでぜひしっかり理解するようにしてほしい。
・委託者…財産を受託者に移転し、信託目的にしたがい受益者のために受託者にその財産の管理・処分等をさせる者
・受託者…委託者から信託財産の移転を受け、信託目的にしたがって受益者のために信託財産の管理・処分等をする者
・受益者…受託者から信託行為に基づいて信託利益の給付を受ける権利と、その権利を確保するために、受託者に対して帳簿閲覧請求や信託違反行為の差止請求等の権利を有する者
・信託目的…委託者が信託設定によって達成しようとする目標であり、受託者の行動の指針となるもの
・信託財産…受託者が信託目的にしたがって受益者のために管理·処分等をする財産(金銭、株式、不動産等)
・受益権の評価
受益権を相続や贈与等で取得する場合、 受益権の評価は「信託された財産価額」によって評価される。
・信託の課税関係
信託契約をすると、信託した財産の所有権は委託者から受託者に移る。 しかし、税務上は実質的に財産を所有しているのは信託財産から経済的利益を得ている「受益者」と考えられるのだ。
そのため、信託財産にかかる収入や費用等は、 受益者が申告することになりるのだ。なお、委託者+受益者となる場合には、受益権が、相続税または贈与税の課税対象になる。
商事信託と民事信託 (家族信託)の違い
信託は大きく分けると商事信託と家族信託に分類される。 商事信託と民事信託の違いは以下のようになる。・商事信託
概要…国の免許や登録を受けた信託会社や信託銀行が受託者になり、信託報酬を受け取る。
効果…受託者のなり手の問題を解消でき、信託に精通した専門的なサービスが受けられる。財産管理の負担が軽減できる。
留意点…受託財産の制限がある。信託報酬等の費用がかかる。
・民事信託
概要…営利目的でなく、かつ反復継続しなければ、信託業免許を持たない法人や個人が受託者になれる。
効果…受託財産に特段制限はなく、柔軟な設定ができる。商事信託に比べ、費用が抑えられる。
留意点… 受託者の選定が困難となる場合がある。財産管理の負担が増える。
信託を活用してできること
例えば、信託を使えば、生前に財産の管理など信託銀行に任せることができ、相続時にはスムーズな財産移転が可能だ。本人が希望する時期から計画的に家族に株の配当などを受け取らせることが可能になる。また本人の万一の際、家族へ計画的に信託財産を移転することもできるのだ。
また、会社を経営し自社株がある場合、議決権を確保したまま、後継者に自社株を移転することができる。
「議決権行使の指図権」 をオーナーが保持することで、後継者に自社株を承継した後も、議決権をコントロールすることが可能になるのだ。
つまり、株式の財産的部分 (配当や残余財産の配分等を受領する権利)のみを後継者に移転することが可能になるというこだ。
また、信託を使えば、次代だけでなく数世代先まで財産の行先を決めることができる。
子の世代だけでなく、孫の世代の後継者についても、 オーナーの意思を反映することが可能になるのだ。(信託設定時から 30年経過後に新たな受益者が受益権を取得し、当該受益者が死亡または受益権が消滅するまで有効)
このように、信託を利用することで様々な継承が可能になるのだ。
まとめ
今回は、富裕層の多くが利用している信託銀行について説明をした。信託銀行は、一部の富裕層しか使っていないイメージをお持ちであると思うが、富裕層が利用している意味はあるのだ。信託を使えば相続前から、株などの配当を家族に渡すことができ、また経営権を守ることもできる。
一見すると複雑な信託の仕組みであるが、今回の記事で信託の基本についてしっかり理解して頂ければ幸いだ。