日本の富裕層ビジネス
金融・不動産編

NEWS BLOG 2019.02.25
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スイスのプライベートバンクと
日本のプライベート・バンキング


 前回、日本の富裕層サービスは2000年代に開花したということをお話しました。様々なメディアの登場やコンシェルジュサービス。メディアが先行するかたちで日本型富裕層サービスが次々に誕生しました。 今回は金融・不動産編として、プラベート・バンキング、高級不動産のお話をしたいと思います。

  プライベート・バンキング・サービスは、もともとスイスのプライベートバンクをモデルにしています。2000年代にはスイスプラインベートバンクの最大手、ピクテも帝国ホテル内にオフィスを構えていました。そして日本のプライベート・バンキング・サービスもこの頃、始まっています。

  それまで日本では億単位の資産を預ける人も預金残高ほぼゼロの学生も、同じ銀行の同じ窓口に並んでいるという不条理を、誰も疑問には感じていませんでした。しかし富裕層サービスの機運の高まりとともに、プライベート・バンキング・サービスは、この『すべての顧客は平等』という原則では、すべての顧客を幸福にできないのではないか?という問題意識とともに生まれたのです。

  もともと本家スイスでは何故プライベートバンクが発達したのかというと、ヨーロッパの中心に位置する地の利、永世中立国であり戦災を逃れられるということがあります。国境を接するイタリアやフランス、ドイツ、また海を隔ててイギリスなど、多くの富裕層が住まう周辺国で戦争の気配を感じると、資産家たちはスイスのPBへとお金を預けに詣でました。スイスのプライベートバンクは外観は今でも個人の邸宅のようで、実際そこに行けばオーナーファミリーといつものスタッフが温かく迎えてくれる。その安心感があったのです。

  これは日本で言えば古くからの城下町を守る老舗の造り酒屋のような存在でしょうか。あの家に行けば、いつもあのご主人がいてくれるという安心感。土地に根ざし、いつもオーナーがそこにいることで、安心と安全が確保される。戦争や災害などのリスクを考えながら大事な資産を預ける富裕層にとって、これは非常に重要なファクターであったと思われます。そしてこの安心・安全という感覚は同じ土地で長い長い時間をかけて、はじめて醸成されるものです。

  そんなふうにスイスのプライベートバンクは安心・安全を醸成しながら、土地に根ざした文化として発達してきました。だから顧客も、その安心安全な土地のボーディングスクールに大事な子弟を留学させたり、自分のためには湖畔にシャレーやマンションなどの不動産を購入したりするため、学校や不動産もセットになって進化してきました。

デジタルエイジの
富裕層サービス


  一方、プライベート・バンキングサービスが日本で開花した2000年代は、テクノロジーの革新で世界が大きく変わる時代でもありました。スマホの誕生(アイフォンは2007年)で、お金を物理的に移動する意味合いが薄れ、簡単に自分がいまいる場所で瞬間移動できるようになりました。富裕層のライフスタイルもノマド化し、経済的自由がある富裕層は、土地に縛られること無く、世界を身軽に移動。デジタルシニアや、最近ではデジタルネイティブのミレニアル世代が、富裕層市場で存在感を増しています。

 これによってプライベートバンクの「土地に根ざした」「ファミリービジネス」の意味合いも大分様相が変わってきています。現代ではむしろ、アナログなホスピタリティとデジタルサービスの心地よい融合、そのハイブリッドなサービス、ホスピタリティ創出の切り口が問われるようになっているのではないかと思います。 (関連記事:これから富裕層は、ますますハイブリッド化する )。

  またプライベートバンクでは、ハイブリッドと同時に、グローバルに開かれたサービスが望まれています。実際、富裕層にインタビューを行っていると、プライベートバンクやプライベート・バンキング・サービスを利用している人は、海外でビジネスをしていたり、子弟が留学しているなど、グローバルに活動している人が多く見受けられます。

  スイスPBであれば、子弟をスイスのボーディングスクールに留学させていたり、自身が時計の輸入ビジネスしている。フランスのPBであれば、パリ、モナコ、カンヌなどとファッションやショービジネス、映画などの仕事で文化的つながりがあったり、お子さんがフランスの高校に留学している。米系銀行であればお子さんがニューヨークにいらっしゃって、自身もニューヨークのオークションハウスでジュエリーを買うの生きがいになっているとか、もっとシンプルにアメリカにビジネス拠点をもっているとか。

  いずれにしてもグローバルに活躍する富裕層が相手となるので、そのニーズに寄り添う必要がでてきます。

  さらに2000年代の富裕層サービス黎明期と前後して、日本での富裕層サービスに進出した海外のPBは、この10年で撤退したり、日本の銀行のグループになっています。香港上海銀行は日本での富裕層向けにプレミアサービスを行っていましたが、2012年、国内のプライベートバンク事業をクレディスイス銀行に譲渡。その後、個人口座の開設は香港支店で行っています。フランスのPB、SG信託銀行は三井住友銀行に吸収され、SMBC信託銀行となりました。SMBC信託銀行は、さらにシティバンク銀行のリテールバンク部門を吸収し、PRESTIAとして業務を開始する等。

  PBは林立の時代から淘汰が進み、グローバルなニーズをもつ日本の富裕層顧客を日本の銀行が抱え込むことで、これからはアジアを中心とする世界の富裕層に向けて、日本独自のプライベートバンキングサービスが育っていくのであろうと思います。スイスがヨーロッパの中心で周辺国の富裕層を惹きつけたように、日本も自国のみならず周辺アジア諸国の富裕層を惹きつける富裕層向けサービス国として進化していくのでしょう。

高級不動産は芸術品

  洋服やバッグのラグジュアリーブランドの顧客となることは富裕層であることが絶対条件では無く、むしろハイファッションへの興味が原動力になります(もちろん年間1000万クラスの上顧客、クロコダイルやファーなどをコレクションしている方は高い確率で富裕層)。しかし高級不動産の顧客は、真の富裕層と考えて間違いないでしょう。

  高級不動産を扱う企業はたくさんありますが、富裕層向け専業と思えるのはKENコーポレーション、プラザホームズなど。またロンドン発祥で現在はニューヨークに本部がある老舗オークションハウス、サザビーズの不動産部門が扱う海外不動産、国内不動産を販売するリストインターナショナルリアルティ。
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  ところでサザビーズといえば、世界の3大オークションハウス、サザビーズ、クリスティーズ、フィリップスのうちで、このサザビーズだけが独立系。クリスティーズはケリンググループ、フィリップスはLVMHグループになっており(いずれも日本ではプレビューのみでオークションは行っていない)、つまりラグジュアリーブランドはしっかりと、ファッションビジネスで培った審美眼で、不動産を芸術品として、アパレルの顧客以上に富裕度の高い顧客層に販売しています。

  リストインターナショナルリアルティが扱うサザビーズの不動産は海外不動産がメインですが、国内でも旧財閥の屋敷など、文化財クラスの「芸術的」不動産を扱っています。そしてこれを購入するのもアジアの富豪やアメリカの富豪だったりするので、やはり高級不動産の世界もグローバル視点での運営は必須であり、また高級であればあるほど芸術品に近い売れ方をしているのだと思います。

  ですから日本の高級不動産ビジネスは、かつて村上隆氏をはじめとする日本のコンテンポラリーアーティストの作品が世界のオークションリストに載るようになって、価格が2桁も3桁も上がったように、「グローバル × アート」の視点で、不動産を「作品」としてブランディングしていくことが、今後の流れになるのであろうと思います。



cover photo:Werner Bayer Geneve-Bicentenaire

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