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あかいも!

Mimi 2020.09.28

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9月、孫のゲンちゃんが3歳になった。0歳、1歳、2歳の時もそれぞれの段階でかわいかったが、3歳になると意思疎通しておしゃべりが出来るのが楽しい。

お誕生日プレゼントは前から、大工さんのような道具で組み立てる木の消防車と、レゴ、そしてクレーンゲームセットを用意していた。何しろ今はまだ「○○が欲しい」とは言わないので、勝手にこちらが気に入った物をプレゼントすれば良いので気楽だ。




木製の消防車を組み立てる


パパの得意なクレーンゲーム
この後、お菓子やおもちゃを足した


さて、ゲンちゃんがお話を出来るようになったらもう一つプレゼントしたいものがあった。
人形の家だ。

息子が小さいころ、私はいろいろな人形の家を買った。ムーミンの家、リカちゃんハウス、アンパンマンの家、くまちゃんの家、ガバーっとページを開く度に新しいお部屋が飛び出てくる絵本等々。ピクニックに行ったり、かくれんぼしたり、冒険したり、お友だちとパーティをしたり、次々楽しい出来事を二人で考えだしていると、あっという間に時間が経ち、お夕食作りの時間になってしまった思い出がある。

今はどんな人形の家を売っているのだろう。ネットで検索すると、私が「あっ」と思うネーミングの家があった。「あかりの灯る大きなお家」───シルバニアファミリーのシリーズの一つである。




突然、私の中にK. Mansfield の短編、The Doll’s House が蘇る。


The Doll’s House が収録されている本


The Doll’s House 冒頭部分


バーネル家に泊まりに来ていたヘイ夫人から大きな人形の家が贈られたことからストーリーは始まる。
ペンキの匂いが強いので、それが納まるまで中庭に置かれた人形の家に、バーネル家の三人の娘たちは大喜び。家の前面を開くと、子供達の喜びは更に増す。応接間も食堂も台所もベッドルームも一望できるのだ。壁紙も家具も全部揃っている。「おうちが全部こういう風に開けばいいのに。」こんな風に家を開いて、神様は天使と夜の見回りをするのだ。

中でも三人娘の次女ケザイアのお気に入りは、食卓に置かれた琥珀色で白い笠のついたランプ。オイルのようなものが入っていて揺らすと動く。だが、姉も妹もそれほどランプには興味がないようだ。

学校の友だちは、みんな人形の家見物に招待され、学校ではその話で持ちきりだ。だが、社会的に低い身分である洗濯女の娘たち、ケルヴィ姉妹だけは招待されない。お昼のお弁当の輪にも入れて貰えないその子たちは、人形の家の話題を漏れ聞くだけだ。

物語のハイライトは最後に来る。ケザイアが、ケルヴィ姉妹をこっそり中庭に呼び入れて人形の家を見せるのだ。だが、すぐ家族に見つかってしまい、ケルヴィ姉妹は追い出される。

だがその後、道沿いの土管に座った妹は姉にそっと微笑んで言う。” I seen the little lamp,” (「あたし、ちっちゃなランプを見たよ。」)

この子はケザイアと同じ感性を持ってランプを愛でたのだ。

私自身は私立小学校で「あなたたちは温室育ちよ」と言われながら、高学歴で裕福な親の娘たちと一緒に育った。ケルヴィ姉妹のような子たちと会う機会はなかったが、もしケザイアの立場だったら、母親に内緒でケルヴィ姉妹を招待する勇気があったろうか?この短編を読むたびに、あれこれの登場人物に感情移入して、私の心は漣を立てるのだ。みっともないボロを着てこそこそ歩いているケルヴィ姉妹を招待しない母親も、一概に非難出来ない気がするし・・・。百年前の身分制度は、ニュージーランドだけでなく日本だって厳しかった。

だが、そんなことより、私のあこがれは、灯りのともる人形の家。それが、今では売っているのだ。マンスフィールドの時代と違って、本物の灯りがともる家が。

早速注文しようとして、はた、と指が止まった。家だけあっても遊べないじゃないか。さまざまな家具、備品、食べ物、そう言ったものを一つ一つ全部買いそろえなければならない。膨大なエネルギーだ。どうしよう?そこで、誰かさんが「卒業」してしまったのをまるまる一切合財手に入れることを思いついた。ネットで見つけ、早速注文。

届いたのは大きな段ボールの箱。赤い屋根の大きなおうちを取り出してみると、確かに部屋には照明器具がついている。スイッチを押すと、部屋がパッと暖かい光で満たされる。私の心も明るく灯る。そしていろいろな家具、細かな備品の数々。掃除機、テレビ、台所道具、食品等々、おびただしい数だ。そしてうさぎやリス、クマなどの人形。この子たちが第二の人生をうちで過ごすことになる。





チャンネルの切り替え装置が付いているテレビ




本物みたいな掃除機やバスルームセット


早速ゲンちゃんが遊びに来た時にお披露目したら、大いに気に入ってくれた。一回完結型でいろいろなストーリーを二人で考える。ゲンちゃんが縫いぐるみの鳥を持って、怖い声で「フォーフォー、お化け鳥だぞー!」と窓の外に現れると、中の住人たちを演じる私は「キャーお化け鳥だわ。逃げなくちゃ」と大騒ぎ。そんな中偵察に行ったくまちゃんがお化け鳥と遭遇したりして、てんやわんやの事件が起き、結局は一件落着する。


掃除機で床掃除


すると、ゲンちゃんは「あかいも!」と声を張り上げる。これはゲンちゃん語で「もう一回」を意味する。大人たちがどんなにそれを直そうと試みても、ゲンちゃんは断固として「あかいも」と言い続けるので、いつの間にかうちでは皆が「あかいも」を採用してしまった。

今度は私が悪役の松ぼっくりを持って登場。煙突のてっぺんにいる赤ちゃんを襲う松ぼっくり、それを救い出そうとするゲンちゃんが演じるリスの家族。いつの間にか善人になったお化け鳥が松ぼっくりを退治して一件落着すると、ゲンちゃんが叫ぶ。

「あかいも!」

ゲンちゃんと遊ぶおうちごっこは本当に楽しい。シルバニアファミリーにはいろいろなおうち、そして学校、幼稚園、クルーザーまで出ているから、次は何を買おうかなんて考えるのも楽しい。結局はゲンちゃんをダシに私が楽しんでいる。

息子に続いてもう一回孫とおうちごっこをするようになるなんて想像していなかった。
ああ、こんなゲンちゃんも、おうちごっこをいつか卒業してしまうんだろうな。もっとやりたいな。次にやれるのはゲンちゃんの子供───つまり私のひ孫と?人生百年なら、無理ではないかも。

神様、お願いします。「あかいも!」
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