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有事の暗号資産

Shirotaromaru 2022.04.25

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「有事の円買い」「有事のドル買い」など、これまで戦争や金融危機などが起きた際の資産の逃避先として日本円やアメリカドルなどが挙げられてきたが、ここ最近はビットコインなどの暗号資産も注目を集めている。

ウクライナへの侵攻に対して課せられた経済制裁の対抗策として資産をビットコインに移したロシアの富豪も多く、またウクライナに対し暗号資産での寄付金を寄せる活動も見られている。株や他の通貨とは異なる、有事の際の暗号資産の動きなどについて取り上げてみたい。

■暗号資産の特性による優位性

暗号資産は実体を持たないデジタル通貨であり、送金や決済が瞬時に行える。これは戦時下など喫緊に資金を要するような場合や、資金移動を急ぐ場合に大きな強みとなるだろう。また、ブロックチェーン上に全ての取引情報が記録され誰でも閲覧が可能な仕組みではあるものの、データに取引を行った個人や組織をすぐに特定できるような情報は含まれていない。過去の取引記録やIPアドレスデータなどの情報を照らし合わせるなどの調査をすることで送金元を特定できる可能性はあるが、銀行決済などよりは匿名性が高いと考えられるため、身分を明かさずに資金を動かしたい場合にも暗号資産を用いるケースが増えている。

■ロシア・ウクライナ紛争における暗号資産



「汚職天国」などと揶揄されていたウクライナは、高いインフレ率への対抗策や自国通貨安などを嫌気する流れから自国通貨以外に暗号資産を保有する動きが活発になっていた。

暗号資産をマイニング(=採掘)するためには膨大な数のマイニングマシンが必要となり、それらを動かすための電力も必要とされる。ウクライナの電気料金の安さと寒冷な気候はマイニングに適合していると言え、国内でのマイニング量は拡大を続けていた。 ロシアが侵攻する一月ほど前にウクライナ議会は暗号通貨を合法化する法案を可決し、規制と管理の枠組みを早急に準備していた。それにより、ロシア侵攻後の3月末には6,000万ドル(約72億円)もの寄付を暗号資産で受け取ることができたと言われている。

一方ロシアでも、ロシア中銀が暗号通貨に対し取引を禁じようとする動きとは裏腹に、プーチン大統領は暗号資産を肯定する発言をし、将来的な容認をうかがわせる姿勢をとり続けていた。一部ではプーチン大統領の資産の一部は既に暗号資産に置き換えられているとの噂もある。

ウクライナ侵攻後にロシア政府は暗号資産の活用を促す法案を新たに発表し、他国からの金融制裁を回避する方策の一つとして暗号資産の活用を取り入れたと考えられている。暗号資産調査会社であるカイコ社の報告では、2月24日のロシアルーブル建てビットコインの取引高は2021年5月以来の15億ルーブル(約18億円)という高い水準にまで達したとされている。

■キプロスショックでの暗号資産

暗号資産が有事の際の資産の逃避先として選ばれたのは今回が初めてではない。暗号資産が通常の通貨と決定的に異なる部分は、国や政府が発行したものでないという点だ。そのため、財政破綻や戦争などが起こった際に政府に預金を封鎖されたり、第二次世界大戦後の日本で起きたようなハイパーインフレが起こった際に通貨単位の切り下げが施行されたりしても影響を受けることがないのだ。国や政府からの干渉を受けることがない、ある意味独立した通貨として考える投資家たちも少なくない。

その特性が大きく注目されたのが2013年3月に起きたキプロスショックだ。 2010年にギリシャで隠蔽されていた財政赤字が明るみになったことでギリシャ国債の格付が大幅に引き下げられ、債券単価の急落やデフォルトリスクの拡大などが引き起こされた。ギリシャと歴史的に深い関係にあるキプロスにも金融危機が飛び火したためEUやIMFに支援を求めるも、支援の代わりに全ての銀行預金に対し高い税率を課すという条件が提示され市民を巻き込む大混乱に陥った。

銀行預金を引き出そうにも現金不足で出金できない状況に陥り、政府や金融機関、また自国通貨に不信感を抱いた多くの人々は暗号資産のビットコインに資産を置き換えるという対策をとった。このニュースが近隣諸国にも伝わり、EU圏からもビットコインに資金が流入したことでビットコインが大きく値上がりしたということがあった。具体的には2013年1月に約10ドル程度だったビットコインの価格は、同年12月には約1,000ドルに達することとなり、ビットコイン保有者たちは自己資産を守るどころか値上がりによって大きく増やす結果になったのである。

■暗号資産は有事に有効か

キプロスショックの際にビットコインに資産を移すことで資産価値の目減りを防ぐことができたのは事実であり、ジンバブエやベネズエラなど財政悪化により自国通貨への信用不安が生じている国でも暗号通貨の取引量が拡大していることなどから、有事の際の資産の避難先の1つとして機能する可能性は考えられる。

ただ、今回のウクライナ侵攻でもたらされた物価上昇のようなインフレの対策として有効かと言えば、伝統的な金への投資などと比較すると暗号資産が有効であるとは言い切れない。暗号資産は変動幅が大きく、市場外部からの影響も受けやすい。投機的な勢力にも操られやすい性質も伴っているため変動の予測は困難と考えられる。 また暗号資産ならではのリスクとして、法が完全に整備されているとは言えないことから今後の規制によってどのような影響が出るか予測できない点や、ハッキングなどで資産を奪われるリスクがいまだ完全に防止できていないという点なども、暗号資産がリスクヘッジとして有効と認められるには時期尚早だろう。

暗号資産市場やユーザーの広がりと開発が活発であることを考えると、暗号資産の成長は今後も期待できそうだ。リスクはあるものの、多くの富裕層や企業に暗号資産への投資が広がり、市場の透明性が更に進化することで的確な投資対象として広く承認される可能性は十分あると考えられるのではないだろうか。


この記事は、お客さまへの情報提供を目的として提供するものであり、暗号資産取引の勧誘を目的とするものではありません。暗号資産取引等に関する意思決定は、お客さまご自身の判断と責任でなさるようお願いいたします。
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