

「黄色い家」の秘密───ゴッホ展に行って
Mimi 2021.10.25
東京都美術館で開催されている「ゴッホ展」に行った。これは、ヘレーネ・クレラ―=ミュラー(1869-1939)による収集品が元になっている。ゴッホの他にも、モンドリアンなどの近代絵画の名品が並び、彼女の審美眼の素晴らしさが実感できる。
そこで、この絵を良く見ると、不思議な現象が起きていることがわかった。
まず空の色だ。紺色の空は、黄色の家の色とマッチしているが、空の色だけ見たら、星が出ていてもおかしくない程の夜空の色だ。だが、描かれている建物群はみな、昼の光の中に建っている。
それでは、陽はどこから射しているのか?どうも画面左の上から射しているようだ。なぜならば、黄色の家の向かって右側の道には、建物の陰が落ちているから。ところが、本来なら暗いはずの陰側の壁は、光が当たっているように明るく描かれているのだ。
人物のどれにも影は描かれていない。一体これはどういうことなのか?そして、この違和感こそが「黄色い家」の魅力であると気づいた。
黄色い家の二階、向かって左側のシャッターの閉まった窓は、ゴッホの寝室。右側のシャッターの開いた窓はゴーギャンが一緒に住んだ時に使った寝室だ。「青い部屋」として構図は同じでも、色合いの異なる三枚の絵が残されている。
「青い部屋」は今回の展示にはなかったが、ゴッホの絵でもシャッターは閉まり、向かって左にゴーギャンの部屋に通じるドアが描かれている。一階はアトリエだった。
こうして「黄色の家」の秘密を探っていると、ベニスで見たペギー。グッゲンハイム・コレクションのルネ・マグリットの「光の帝国」という絵を思い出した。空は明るく、白い雲が浮かんでいるのに、地上は暗く、家の前の街頭がポツンと灯っている。
展覧会出口のミュージアム・ストアに大きな「黄色の家」の縫いぐるみを売っていて、抱えて帰った。
大きすぎて、ソファの背もたれにもならない。だが、ゴッホの部屋の閉まったシャッターまで再現されている力作だ。その閉まったシャッターの中のゴッホを、あれこれ想像して、展覧会の余韻を楽しんでいる。