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「黄色い家」の秘密───ゴッホ展に行って

Mimi 2021.10.25

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東京都美術館で開催されている「ゴッホ展」に行った。これは、ヘレーネ・クレラ―=ミュラー(1869-1939)による収集品が元になっている。ゴッホの他にも、モンドリアンなどの近代絵画の名品が並び、彼女の審美眼の素晴らしさが実感できる。



ヘレーネがゴッホの収集を始めた1907年当時は、ゴッホが亡くなって17年経っていたが、その評価が定まっていたとは言えない。それなのに自分の審美眼を信じて20年にも渡って集め続けたエネルギーには敬服するしかない。



さて、この「黄色い家」にさしかかった時に、奇妙な違和感を覚えた。「黄色の家」は画集等で何度も見たことがあるのに、この違和感は何だろう。

そこで、この絵を良く見ると、不思議な現象が起きていることがわかった。

まず空の色だ。紺色の空は、黄色の家の色とマッチしているが、空の色だけ見たら、星が出ていてもおかしくない程の夜空の色だ。だが、描かれている建物群はみな、昼の光の中に建っている。

それでは、陽はどこから射しているのか?どうも画面左の上から射しているようだ。なぜならば、黄色の家の向かって右側の道には、建物の陰が落ちているから。ところが、本来なら暗いはずの陰側の壁は、光が当たっているように明るく描かれているのだ。

人物のどれにも影は描かれていない。一体これはどういうことなのか?そして、この違和感こそが「黄色い家」の魅力であると気づいた。

黄色い家の二階、向かって左側のシャッターの閉まった窓は、ゴッホの寝室。右側のシャッターの開いた窓はゴーギャンが一緒に住んだ時に使った寝室だ。「青い部屋」として構図は同じでも、色合いの異なる三枚の絵が残されている。

「青い部屋」は今回の展示にはなかったが、ゴッホの絵でもシャッターは閉まり、向かって左にゴーギャンの部屋に通じるドアが描かれている。一階はアトリエだった。



ゴッホは、この夜か昼かわからない、太陽の向きもわからない絵を描くことで、自分の不安定な心の内面を描いたのではないだろうか。外からはシャッターの閉じた窓の内部は見えないし、部屋の中からも、外をほんの少し覗き見ることが出来るだけだ。

こうして「黄色の家」の秘密を探っていると、ベニスで見たペギー。グッゲンハイム・コレクションのルネ・マグリットの「光の帝国」という絵を思い出した。空は明るく、白い雲が浮かんでいるのに、地上は暗く、家の前の街頭がポツンと灯っている。



これは、ゴッホの絵と正反対の情景ではないか。ルネ・マグリットはゴッホより一世紀も後に生まれた画家であるが、ゴッホの「黄色の家」を見て、感化されたのではないか?などと考え、勝手にマグリットの創作の秘密も垣間見たような気分になった。

展覧会出口のミュージアム・ストアに大きな「黄色の家」の縫いぐるみを売っていて、抱えて帰った。

大きすぎて、ソファの背もたれにもならない。だが、ゴッホの部屋の閉まったシャッターまで再現されている力作だ。その閉まったシャッターの中のゴッホを、あれこれ想像して、展覧会の余韻を楽しんでいる。




 
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