放った矢の行方

Mimi 2019.11.27
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多分私が最初に出会った英詩は、中学の英語のテキストに載っていたロングフェロー(Henry Wadsworth Longfellow)の詩だ。The Arrow and the Song という。

有名な詩なのでご存じの方も多いに違いない。ある日、詩人は,空に矢を放った。だが、 矢の早さに目が追い付かず、どこにそれが落下したかわからない。またある日、詩人は歌を歌ったが、歌がどこに落ちたかはわからない。飛んでいく歌を眼で追える人なんてどこにもいない。

最後のスタンザは、心にぐっとくる一節だ。

Long, long afterward, in an oak
I found the arrow, still unbroke;
And the song, from beginning to end,
I found again in the heart of a friend.

ずっと後になって、樫の木の中に詩人は自分の放った矢を見つける。しかも、どこも壊れていない状態で。そして、詩人は歌も見つけた。最初から最後まで───友達の心の中に。

この詩に出会ってから長い年月が経った。私は人生で何本の矢を空中に放ち、いくつの歌を歌って来ただろう。私の心が届かない虚しい気持ちや、やるせない気持ちも味わった。だが、いつかどこかで私の射た矢や歌った歌が見つかるかもしれない、という淡い希望を抱き続けられたのもこの詩のせいだ。見返りを求めるのではない。誰かの心の中に育まれた優しさを見つけられたら嬉しい。それだけのこと。

例年、お誕生日は一人で好きなことをして過ごすのだけれど、今年のお誕生日は、別荘に大好きな人たちをお招きしようと計画した。お誕生日だなどと知らせると、みんなに気を遣わせてしまうかもしれないから、それは秘密にする。おいしいものを一緒に食べ、にんまり心の中でお誕生日を祝おうという趣向である。

別荘にお招きしたのは、別荘のご近所の恭子さん。小櫻秀爾氏、そして息子さんの秀樹氏。東京からは若い三人の女性たち───ユキちゃん、智絵ちゃん、ゆーみさん。

恭子さんは、一年中別荘の玄関にお花を絶やさないようにしていてくれる。きれいなお花のせいで、誰もここが普段無人だなんて気が付かない。

小櫻親子はお二人とも作曲家で、私に音楽の楽しさを教えてくださった貴重な存在。

ユキちゃんは、大学時代、息子が所属していた水球部のマネージャーだった。彼女が一年生で初めてうちに来た日はたまたま彼女のお誕生日。そこで私はヘーゼルナッツのケーキを焼いた。家にあった白いキャンドルを立てたら、みんなにこれはお灯明用だと非難されたっけ。

智絵ちゃんは私の以前の学生さんで、管理栄養士。病院に勤める彼女は、栄養療法の研究をしている。

ゆーみさんは、つい最近ブルネイで知り合った。世界を駆け巡っていて、別荘から帰った翌日にはカナダに行き、その後も旅を続けている。

智絵ちゃんに、パーティのメニューのコーディネートを事前にお願いしてあったので、必要品のリストを貰い、前の週に家族と車で別荘に行った時に、東京から瓶缶類、各種スパイスや粉など大量の食材を運んでおいた。

誕生日の前日、私は一足早く別荘に到着し、生鮮食品を買って下準備。


東海道新幹線の車窓から見えた富士山


さて、翌日は女性たちが新幹線で東京から次々到着して、休む間もなく料理作りを開始。

料理で世界を巡るという今回のテーマはスペイン。それぞれがスペインの料理を調べてLINEで意見を出し合い、メニューはみんなで決めた。私も東京からCavaを何本か持参。やっぱり、スペイン料理にはCavaでなくちゃね。

小櫻秀爾氏が昼間チコリを届けてくださったので、早速チコリのオードブルもメニューに加わる。

そして、びっくりするようなことが起こった。なんと、ちょっと目を離した隙に、ダイニングルームの窓辺にHAPPY BIRTHDAYのお飾り。きれいな色とりどりの風船までがふわふわしている。ええっ?何で私のお誕生日だって知っているの?嬉しい驚き。どうもユキちゃんが偶然知っていて、みんなで趣向を考えたらしい。そして娘のような三人から、ヨーグルトやカッテージチーズを作れる機械をプレゼントされ、感激のしっぱなしだ。遠路はるばる東京から来てくれただけでも嬉しいのに、こんなサプライズまで!


いつの間にかダイニングルームにバナーと風船が


ディナーは大成功だった。お料理もおいしく出来、興に乗った秀樹さんが、レクチャー付のピアノ演奏。言語と音楽の関係について、というお話は面白かった。ドイツ語のキレの良さ、フランス語のリエゾンがそれぞれ国の音楽の特徴をなす。実際にベートーベンのキレの良い曲と、ドビュッシーの曖昧に移行するメロディーと弾いて検証していただくと、なるほどと納得する。

三人のお嬢さんたち、お互い同士は知り合ってそんなに長くない。だから、当初は別々の部屋に泊まる予定だった。だが、みんなでお料理を作り、おいしく食事を共にするうち交流も深まり、3人が同じ部屋に泊まることに。

その夜私はベッドの中で、喜びを反芻していた。そして冒頭に紹介したロングフェローの詩を口ずさんだ。今日集まった人たちは、私の放った歌をしっかり受け止めてくれ、また私もまた彼らの歌をそのまま心に留めて大切にしている、そんなイメージが湧いたのだ。優しい矢と楽しい歌が彗星のように夜空を飛び交う世界を想像するうち、いつの間にか幸せな眠りに落ちていた。


お料理はみんなで力を合わせて

チキンのベイクドハニー


ミートパイ


ブルスケッタ

クランベリーとくるみのライ麦ロール

レンテハス

ベーコン&チコリ

オムレツ

チコリの前菜

豚の塊肉煮

ケイジャリー(中に干したタラが入っている)

智絵ちゃん特製のバナナのタルトタタンは最高

窓からの景色

翌日の朝食

ユキちゃんはハンモックがお気に入り

バースデープレゼントの機械で早速作ったカッテージチーズは美味しかった

私の好きな苺のお酒は、みんなもダーイ好き

おいしい食事はみんなをハッピーにする

ミートパイを切り分ける智絵ちゃん

カンパーイ!


最初のカンパーイはピムスで




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