山田平安堂4代目 山田健太さん(1)プロダクトとしての漆の可能性
Luxury CEO Interview 2015.11.12
日本を代表する漆器ブランドである山田平安堂。 4代目当主の山田健太さんは伝統産業である業界に イノベーションをしかけ、 世界に向けて漆の魅力をアピールする業界のリーダー。 しかし決してここまで順風満帆に来たわけではなく 実は倒産寸前だった家業を若くして引き受け、再生し、 現代にふさわしい漆器の世界をつくりあげたのでした。 デザインも自ら行うという健太社長に 漆のラグジュアリーを語ってもらいました。
第1回 プロダクトとしての漆の可能性 第2回 空間へ拡げる 第3回 未来志向の漆ビジネス
第1回 プロダクトとしての漆の可能性
- 栗原
- 山田さんは就職した銀行を2年でやめられて、 会社を再建するという立場で入られたんですってね。
- 山田
- そうですね。基本的には再建です。 当時って結構、銀行がまだ浪花節だったんですよね。 さくっと潰す時代じゃなく、まあ会社が立ちいかないなら ラストチャンスを息子に託してみたら?みたいな感じで。 僕は普通にサラリーマンやってたんですけど。 僕、家は裕福だと思ってたんですけどね(笑)。 実はけっこう会社が危ないって聞いて。 それに銀行員の給料って 意外と若いうちは安くてですね(笑) で、まあ親にはお世話になったし、 家業をやって親孝行しようかなと。
- 栗原
- で、最初から社長になられたんですか?
- 山田
- いえ、入ったときは父親が社長で、僕は平社員。 それから1年後に父が亡くなって、 それで社長になったという経緯ですね。
- 栗原
- それ以来ずっと、売上を拡大されて 15年連続で増収だそうですね。
- 山田
- そうですね、お陰さまで。 まあ、もう一度やれって言われても無理なくらい いろいろやったし、運もあったし。
- 栗原
- きっと子供の頃からずっと漆に囲まれた 暮らしだったんでしょうね。
- 山田
- ええ。インテリアの中にも漆はいっぱい使われていたし、 食卓も普通の人に比べたら10倍くらい 漆を使ってたので(笑)。
- 栗原
- ご飯茶碗も漆なんですよね。
- 山田
- それがやっぱりすごい印象深いんですね。 もう、当たり前のように、生まれてずっと 漆の椀で飯食ってたんで。 社会に出て一番、違和感覚えたのが茶碗ですよね。 なんでこんなに熱い器があるんだってね(笑)。
- 栗原
- なるほど、まあそうなりますよね。
- 山田
- 今は漆器は、なんでもかんでも使いましょうっていう 時代でないことはわかってるんですけど、 やっぱり熱いもの入れる器は木のほうが 合理性があると思う。
- 栗原
- というと?
- 山田
- 日本は器を手に取る文化じゃないですか。 それで、断熱性のある器じゃないと熱いんで、 変な持ち方しないといけなくなっちゃう。
- 栗原
- そういうことですね。
- 山田
- そこにはやっぱり木の器がね、 普遍的な文化と結びついてる気がする。 そこがもっとみんなに知ってほしいな、と 思うところですよ。
- 栗原
- たしかに。 それと漆の椀に盛られたご飯は、 よく映えてきれいですよね。 飯碗にお使いのものは黒いものですか?
- 山田
- 私はずっと朱色を使ってます。 漆器って、これ男尊女卑なところがあるので、 人に言ってないんですけど 朱色が男の器なんですよ。
- 栗原
- えー、そうなんですか?
- 山田
- ええ。黒って簡単に出せるんですよ。 やっぱり朱色は出すのが難しいし、 神社仏閣でも全部朱色じゃないですか。
- 栗原
- ええ。
- 山田
- 朱色っていうのは高貴な色で、 高貴な色を使うのは男、みたいな。 ですから、あんまりおおっぴらに言ってないですけど。
- 栗原
- ああ、なるほど。そういう意味があったんですね。 話は変わりますけど、海外市場へは、 積極的に進出されていますか?
- 山田
- 海外は、いま直接やっているのはアメリカです。 ヨーロッパはまだ踏み込めていない。 和食器を外国に売るというのは それなりにハードルが高いけれども 漆の美しさを売ればいいので 今は必ずしもそれが食器でなくてもいいんじゃないかと 思っています。
- 栗原
- たとえばどういうものがありますか?
- 山田
- ショパールとのコラボでつくった 蒔絵の腕時計とか、まああれはショパールの 力を借りているわけですけど。
- 山田
- 要するに漆とか蒔絵の美しさを評価してもらうために 必ずしも和食器である必要はない、 という割り切りは持ってます。 むしろそうしたほうがいいのではないかと思います。 というのは100万円のお椀って、なかなか出ない。 でも100万円の時計は、 普通に出したら安いぐらいの 価値観になっちゃう世界ですから。 やっぱりそっちの方が、正しく評価されていいなと。
- 栗原
- 実用を超えて技術の粋を見せられる領域ですね。
- 山田
- なんか食器をつくると、漆器って どうしても他の食器に比べて高くなって、 その器が持つべき絶対的な価格を 超えちゃうわけですよね。 そうすると美しいと思うけど、 やっぱり美術品になっちゃう。 うちは美術商じゃないんで。 やっぱりプロダクトとして お客さんに評価してもらわなきゃいけないんで。 そういった意味では元来は、 そういう付加価値の高いマーケットで きちんと漆を出したほうがいい。 ダイヤモンドと比べても、 これだけ手の込んだ、美しいものがあるんだって 買ってくださる方がいっぱいいるってことが 価値なわけです。 ショパールとのコラボも 7年くらい続いているわけですしね。
- 栗原
- 蒔絵の時計は今も続けて生産されているのですか?
- 山田
- ええ、ずっと続いてますし、売上も落ちていないですね。 未だに1年待ちの商品です。
- 栗原
- へえーっ、1年待ちなんですか。 価格はおいくらですか?
- 山田
- いま250万です。
- 栗原
- やはり売れているのは海外が多いですか?
- 山田
- ええ。ほとんど海外だと思います。 それと、時計ということで言うと一昨年、 セイコーのクレドールにも採用されました。 結構、時計の中で漆を使っていくというのは ひとつマーケットができてきていますね。
- 栗原
- 蒔絵の時計というマーケットですね。
- 山田
- ショパールは蒔絵で、クレドールは螺鈿ですけどね。 宝飾的な中でも存在感が徐々に出てきているんです。
- 栗原
- それは楽しみですね。 そういえばBOVETも蒔絵をやっていましたものね。
- 山田
- ええ、やっていました。 やはりショパールの成功が影響あるんだと思います。 実際ショパールは最初5絵柄で始まったのが、 いま15絵柄ありますからね。
- 栗原
- そんなに柄があるんですか! じゃあ、かなりショパールの時計の中では 重要度高いわけですね。
- 山田
- ええ、メンズの中では重要度高いでしょう。 だから、食器は大事なんですけど、 今は倒産するところが多くて 有名なブランドってほぼファンドの傘下ですよ。 食器って安い物だと手軽に入手できる時代に なってきているんで、 世界的にやっぱり苦しいんですよね。 かと言って付加価値の高い食器を売るのも 非常に難しい時代になってきている。 まあ本当に漆の美しさをどこで表現していくかって いうのはすごい重要だと思いますね。
(つづきます)