熱狂と日常のあいだを軽やかに走り抜けるフェラーリ
NEWS BLOG 2016.10.05
先週末、東京を2時間ほど歩いていて、その間フェラーリを3台見かけました。それもいずれも白のコンバーチブル。たぶんひと昔前ならば、それほどフェラーリ遭遇率は高くなかったはず。
それで、ふと考えたのは、先日コーンズさんに行ってお話を伺ったときに、フェラーリはファンの熱狂を掻き立てるコレクターたちの「男の世界」があるいっぽうで、最近は少しずつファミリーに寄った方向にもシフトしているという話でした。
そういえばその3台のフェラーリも実際は乗っていたのは男性ドライバーひとりでしたが、隣りに奥さんだとかガールフレンドだとか、娘さんとか乗っていてもふつうに良さそうな気配でした。
で、今日Bloombergのニュースを見ているとパリ・モーターショーでお披露目のあった2億1000万円の「ラ・フェラーリ アペルタ」のことが出ていました。パリではスクリーンにふたつの戦略が映し出されたといいます。
ひとつは200台限定の「ラ・フェラーリ アペルタ」。こちらは熱狂的コレクターからの予約が殺到し正式発売を前にすでに完売。1台2億1000万円の車がです! で、もうひとつは4シーターモデルの「フェラーリ GTC4 ルッソT」。こちらはもっと日常にドライブを楽しむというファミリーな方向性。
熱狂と日常の2極をバランスしながら疾走を続けるフェラーリ。日常は他のどんな車にも寄り添っているように見えますが、これほどの熱狂を生む車は現代において他に例を見ないんじゃないか。この熱狂はどうやって生まれるのだろう、と考えてしまいました。
それで思うに、まず飢餓感。欲しいのに物が無いということ。いくら高価であっても、お金を出せば必ず買えるのなら、いつか届くというのなら熱狂は生まれないと思うのですが。欲しい。でも無い、とか。欲しい。でも自分が選ばれなかった。などの理由で手に入らないことがある。そこに飢餓感が生まれる。
現にBloombergの記事に出てくるフロリダの大富豪でフェラーリ・コレクターのプレストン・ヘン氏(85)はこのアペルタを購入したかったのに断られています。しかも1億円のデポジットを払ったにもかかわらず、お金は返金されたといいます。まったくすごい話です。
いまはラグジュアリーが大量生産に向かっていって、だんだんノンラグジュアリーとの境界がなくなっている時代。そんな時に真のラグジュアリーは何かというと、このように「少量生産しかできないが故に熱狂が生まれ、欲しい人全員に行き渡らないもの」にこそ、ラグジュアリーが宿るんじゃないかと思えてきます。
来年2017年ブランド生誕70周年を迎えるフェラーリは、1台ずつ仕様の異なる350台のフェラーリを製作するそうです。カリフォルニアT、488GTB、488スパイダー、GTC4ルッソ、F12ベルリネッタという現行5車種をべースに、歴史を彩る過去の名車をモチーフにした350台がつくられるというこのプロジェクト。
もうすでに熱いバトルは始まっているのでしょうか。それとももう勝負は終わっているのでしょうか。
伝説は永遠に続きそうな勢いです。
参照サイト Bloomberg
※カバー写真:「フェラーリ GTC4 ルッソT」
文中の写真:「ラ・フェラーリ アペルタ」
photo: Courtesy of Ferrari