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ブルネイ旅行、次は成田難民、そしてパーティ

Mimi 2019.10.25

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10月12日、日本列島を台風19号が痛めつけた日、グアムに行く予定の息子が成田からlineしてきた。「ラウンジのトイレが使えない。」停電で、ラウンジどころか空港全体のトイレが使えないらしい。さくらラウンジのカウンターで出発前にお寿司をつまんでから搭乗しようとしていた息子の困惑が伝わってくる。給油出来ないので離陸も遅れるらしい。

お気の毒、と思う反面、ああ、親子で成田空港難民になったのね、という感慨を抱く。私も前の月にブルネイに行った後、成田空港難民になったのだ。

私がブルネイに行ったのは先月の9月初め。帰国したのが9月9日。すると台風の直撃で成田空港が陸の孤島になっていた。成田から出る手段がないので難民生活。13,000人が成田空港で夜を過ごしたらしい。私はその日に家に帰れただけまし。その顛末記を書いてみようと思う。

だが、やっぱりブルネイ旅行記は欠かせない。だから、このブログは二つのパートに分けることにする。パート1は、ブルネイ旅行記。パート2は成田難民顛末記。

パート 1 ブルネイ


ブルネイ(正式名称はブルネイ ダルサラーム国)は、ボルネオ島の一部を占める王国である。今年の春にロイヤル・ブルネイ航空が直行便を運航し、6時間半ほどで到着するようになった。三重県と同じくらいの広さの国。人口は40万人で、三重県の四分の一弱。

そこに世襲制の王様が君臨している。石油産油国故、リッチな国だ。王様は車が大好きで700台くらい持っているらしい。その中には、世界に数台しかないランボルギーニやフェラーリが含まれる。宮殿の部屋数は1788室。奥さんも一時は3人いた(イスラム教では一夫多妻が可能なのだ)。

この王様、自分だけ豪奢な生活をしているのではない、国民すべてが豊かに暮らせるように配慮している。税金なし、医療費や出産費用無料。ガソリンも超安い。ハイオク1リットル40円、レギュラー30円。人口より車の数が多いと言われている。

水上集落に住む人たちが少なからずいるが、自家用ボートは持っていなくても、陸に自家用車は持っているとか。水上住宅は快適だ。何しろ台風も地震もないので安全でもある。

快適な国に思えるが、イスラム教ということで、戒律はある。まず、国民は酒、タバコ禁止である。Borneo Bulletinという新聞には、タバコを数カートン持っていた上に、酒作りの原料を持っていたベトナム人が逮捕されたと書いてあった。罰金か20か月の入牢かを選べるとか。かなり重い刑だ(観光客が部屋でたしなむ分には問題ないという)。

さて、観光はどうか。私のツアーに入っていた観光は、ナイトマーケット、朝市、水上ボートでマングローブリバー・サファリ、水上集落の家庭訪問、ニュー・モスクとオールド・モスク、王宮博物館見学。はっきり言って、観光客用のアトラクションは、密林の間をボートで行くだけだ。目玉のテングザルも見られるとは限らない。昼に見たモスクをまた、ライトアップされた夜に見に行く。それはそれで良いが、美術館も動物園も植物園もない。

でも、なぜか私は、この何にもないところが気に入ってしまった。ブルネイの人たちが日常生活しているところを、お邪魔しないように見せていただいているという、疑似ブルネイ人の体験が出来たからである。

そんな旅のいくつかの場面をスケッチと写真で紹介しよう。

ナイト・マーケット
驚くのは、もうもうと立ち込めるチキンや魚を焼く煙。中身が全然想像できない、いろいろな葉にくるまれたチマキ、各種の揚げたお菓子、カラフルというよりドクドクしい色合いのジュースやケーキ、見たこともない不格好な果物、そういうものに圧倒され、食欲はまったく出ない。だが、頭にスカーフをかぶった女性が物を売っていたり、飲食コーナーで食べている姿は絵になる。








ローカルマーケット(昼の市場)
ここで、結婚式の時に花嫁さんの手に描く絵の具を売っていた。洗えば落ちてしまうというのだが、このパステルカラーの色粉を何かのメディウムで溶いて絵を描こうと購入。$5(400円)。


花嫁さんは、この粉で手に絵を描いてもらう。


お米を詰めて蒸す料理に使う、ヤシの葉を編んで作った容器、10個で$1(80円)。市場では店番のおばあさんが、次々編んでいる。


ケツパットという、お米料理の容器。お店の人が、店番しながら編んでいる。


マングローブ リバー サファリ
うまくすればテングザルが見られるらしい。途中水上集落を通り越すと、ジャングル地帯に入る。しばらく行くと、船の動きが突然ゆっくりになる。テングザルの地域に入ったのだ。皆、目を凝らして密林を見つめる。ついに、船が止まった。操縦していたお兄さんが森の奥にテングザルを見つけたらしい。指差される方向を一所懸命見たのだが、結局わからず仕舞いだった。


ジャングルを進むボート

乗客は赤いライフジャケット着用

途中に見える水上住宅

建築中の王様の家

この密林の奥のどこかにテングザルがいる


水上集落のお宅訪問
3LDKというが、一部屋30畳敷きくらいのリビング、それと同じくらいの大きさのファミリールームが並んでいて、広々している。家の中には、フェラーリのボート(フェラーリがボートを作っているのを初めて知った)大会で優勝した記念杯などが並んでいる。水上住宅というと想像する、タイの貧しい建物とは大違い。耳のピンと立った、猫が二匹うろうろ。おうちの人は顔を出さないので、猫がホストとホステスみたいだった。


ガーデニングも楽しんでいる水上住宅

玄関ドアにはステンドグラスが

天井にはシャンデリア


色とりどりのケーキ

ボート大会の優勝カップ

写真のボートには、フェラーリと書いてある



ホストを務める猫ちゃん

隣のファミリールームも広々

ニューモスク(ジャメ・アスル・ハッサナル・ボルキア・モスク)
今の29代目の王様が1994年に建てたモスク。29という数にこだわっている。階段が29段、柱が29本、シャンデリアが29個といった具合。5000人が同時に礼拝できる。

入場前に身を浄める手洗い場所が立派。手を差し出すと水が出る仕掛け。

オールドモスクもそうだが、女の人は黒いガウンを着て下までボタンを留めなければ見学が出来ない。暑い国なので、これは辛い。だが、冷房の効いたモスクに入るまでの辛抱。


スケッチブックより


王立資料館
現国王即位25周年を記念して造られた。即位パレードの様子が再現され豪華。


資料館の中には、王様の偉容を示す数々の豪華な品が

ここでしか売っていないという、針なし蜂の蜂蜜


オールドモスク(オマール・アリ・サイフデン・モスク)
1958年に前国王によって建てられた。イタリアの大理石、イギリスのステンドグラス、ベルギーのカーペットなど世界の最高級の材料で建てられている。私たちが見学したのは、男性用のモスク。内部は写真禁止。


オールドモスク外観


食事
私がブルネイが大好きになった重要な理由は、食べ物のおいしさだ。辛い物が苦手な私でも、おいしいと感じさせる食材の数々。中華、マレー料理というらしい。
ロータス・レストランは雰囲気も良かった。


ロータス レストランの食事で一番印象に残ったのは、ココナツミルクのエビカレー。ココナツのシェルに入って供される

エビカレーの写真


雰囲気のあるロータス レストランの内部


ローカルな食べ物で気に入ったのは、アンブヤとマルタベック。
アンブヤは、片栗粉を煮たみたいな物。端がつながった竹の箸の先に巻きつけて、好みのソースにディップして食べる。


アンブヤは、邪道かもしれないが、アイスクリームと食べるのが一番美味しかった


マルタベックは粉もの。薄いホットケーキ状のものを何枚か重ねてから半分に切り、両手で両側からぐしゃっと押しつぶす。カレーとの相性抜群。


薄いおやきを重ねたマルタベック。カレーをかけて食べる。

マルタペック

ホテルの朝食では、こんな容器に入っている

マルタペックと一緒に食べるカレー


お土産
ブルネイに着いた時、ガイドさんが5,000円の日本円とブルネイのお金を引き換えてくれた。






ブルネイのお札にもコインにも王様の肖像が


それが、なかなか減らない。お土産物屋さんに行っても欲しいものが皆無なのだ。
「I ♡ Brunei」なんて胸にでかでかと書いてある中国製のTシャツなんて、欲しくない。Bruneiと書いてあるチョコレートやお菓子も脂臭くておいしくないらしい。

スーパーで種々のスパイスを見つけた時にはほっとした。数種類買った。


お土産に買ったスパイスの一部


家族や友たちにはそれを使ってお料理を作るので良いが、孫のゲンちゃんはどうしよう!何か買ってあげたいけど何にもない、困った、と思っている矢先、ブルーのリュックを見つけた。ステゴサウルスの形をしている。恐竜大好きの私はすぐ買った。


孫の玄ちゃんへのお土産は恐竜のリュック


気に入ったお土産も買えたし、ブルネイ旅行は満足に終わった。

パート2 「成田難民になる」の巻


ブルネイにいる時から日本に台風が来る予報は出ていた。帰国の日、バンダル・スリ・ブガワン空港00:35発の直行便は台風を避けるために二時間遅れとなる。空港会社が出してくれた食券で、レストランで深夜の食事をユーミさんとした。「ロイヤル・ブルネイ航空だから、これもブルネイの王様のおごりね」なんて話しながら、のんびり食べてから飛行機に乗る。

午前9時半、いざ成田空港に着いてみると、見慣れた成田空港の風景がある。ところが、空港から出る手段がないと言う。リムジンバスも、JRも、京成も全部不通とか。タクシーさえも動けない。その時には事態をそんなに深刻だと考えていなかった。ちょっと待っていればどれかの交通手段が開通するだろうと思ったのだ。

朝なので、到着ロビーにも十分空いた椅子が並んでいる。だが、ここにずっと座っているのも面白くない。そんな時にふと思い出したのが、ゴールドカードを持っていたこと。このカードにはスーツケース宅配サービスが付いているので、持参していたのだった。カード会社に電話してみると、出発ロビーに行けばエグゼクティブ・ラウンジに入れるとのこと。早速直行。ブルネイ旅行のお仲間、シノさんとユーミさんも一緒。やはりお仲間のカイモリさんが先に入っていて、席を確保しておいてくれた。

まさか、それから9時間もそこに滞在することになるとは・・・。少なくとも、ラウンジにいる限りは、飲み物やおつまみのサービスはあるし、スマートフォンの充電も出来る。途中何度か、ユーミさんとラウンジを出て空港の他の場所の偵察に出かけたが、時間が経つに連れて、到着ロビーは人であふれている。大抵のレストランは閉まっているが、唯一開いているレストランには長蛇の列。マクドナルドにも人が溢れている。コンビニのパン、おにぎりのコーナーからは商品が消えてしまった。



ごった返す成田空港

リムジンバスの切符売り場の表示


同じツアーで一緒だったおじさんが、リムジンバスの切符売り場の一番前に座っていた。売りだしたら、一番乗りで買える位置だ。本当にずうずうしいけれど、ユーミさんと私の分を、一緒に買って貰えないかとお願いしたら、OKしてくださった。

私たちのいるラウンジも混んできた。入るのに行列が出来ていて、800人待ちだと言う。ラウンジを出たところも人が一杯で、皆スーツケースを傍らに座り込んでいる。

これは、ただ事ではない、もしかしたらなかなか復旧しないかも、と不安に思いホテルを予約しようとしても、手遅れ。近くのホテルは満杯だし、遠くのホテルは行く手段がない。

後で聞いたら、成田に着いた途端に韓国や台湾に飛び、日本の関空などに折り返しで戻ってきて、新幹線で東京に帰るのが一番早く東京に戻る方法だったという。

9時間もラウンジにいたら、飽き飽きしてしまうだろうが、お仲間たちと楽しく歓談したり、同じラウンジにいる人たちとも食べ物を分け合ったり、情報を交換し合って、和気あいあいと過ごし、そんなに苦痛ではなかった。

そんな時、夜6時半、バスの切符売り場にいたおじさんから電話。バスの切符が取れ、5分後に出発だと言うではないか。大慌てでバス停へ。ユーミさんが、まごつく私の荷物を抱えて走るのを必死に追いかける。彼女がいなかったら、私は雑踏の中で右往左往しただけで終わり、バス停に辿りつけなかっただろう。

そんなわけで、本当にリムジンバスに乗車出来た時には、ほーっとした。

難民生活終了!

でも、話はここで終わらないのだ。ユーミさんも私も、自分たちは快適にラウンジにいたくせに、バス切符売り場前でじっと耐えて座り、ついには切符を買ってくださったおじさんにお礼がしたい。だが、おじさんはお礼なんて必要ない、とおっしゃる。

そこで思いついた。ちょうどその一週間後に、私は自宅でエンユキちゃんとちえちゃんと一緒にお料理をするはずだった。そうだ、ユーミさんも来ておいしいものを作り、おじさんに召し上がっていただけないかしら。

おじさんは、快くその申し出を受けてくださった。パーティにはカイモリさんも参加できることになった。

そんなわけで、成田難民の同窓会を兼ねたパーティが開かれた。
この日のテーマはエスニック。

ブルネイのマーケットで買った、ヤシの葉を編んだ容器にもち米を詰めて数時間煮る。編んだ葉の隙間から米を詰めるのがちょっと大変。詰めすぎると固くなりすぎるそうなので、その頃合いも難しい。何とか詰めて鍋で茹でる。


ケツパットというお米料理。ヤシの葉で編んだ入れ物にお米を詰めるのに一苦労。


それと合わせるのがビーフレンダン。ビーフレンダンには、シュレッドしたココナッツを茶色く炒めたものが入る。パーティの前日からお泊りしているちえちゃんが、夜中までかかって作ってくれた。


ビーフレンダンは、世界で一番おいしい料理、ベスト5に入っている。


その他、ビーフと人参のベトナム風スープ、手羽元のタイ風漬け汁に一晩浸したオーブン焼き、この前トルコ料理パーティで評判の良かったトルコ風ピザに「スルタンのお気に入り」というナスの料理、プーバッポンカレー、レッドカレー、デザートはナツメヤシボールと、ココナッツミルクにナタデココ、ミント添え。


作った料理のいくつかを紹介する。タイ風チキン手羽元

プーパッポンカレー

トルコ風ビザ

一番手前にケツパットが見える

スルタンのお気に入りという、トルコ料理

ナタデココ、ミント添え


全部出来た頃、おじさんとうちの息子の家族も合流。Pimm’s で乾杯。これは、グラスに果物ときゅうりを詰めて、Pimm’s というお酒とレモネードを加えた飲み物。おいしいからつい飲みすぎるけれど、酔ってしまう。


ピムスに使う材料。きゅうりは欠かせない。


「カンパーイ!」皆がグラスを掲げる。普通だったら、空港で荷物を受け取った後、お互い住所も聞かずに別れてしまうような、束の間の旅仲間。それが、難民生活で助け合ううちに仲良くなって、私の家族や友達とここで一同に会し、おいしい食卓を共にしている。
みんなの楽しそうな姿を見て、成田難民になって良かった、と心から思った。


ピムスでカンパーイ!


追記
この旅行記に出て来るユーミさんが、最近本を出版した。紀伊國屋書店で平積みになっているとか。明るい彼女が旅先で出会った人たちに愛を振りまき、また皆に愛されながら生きて行く姿が生き生きと描かれている。





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