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日本の富裕層ビジネス メディア・コンシュルジュ編

NEWS BLOG 2019.01.29

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 富裕層という言葉が使われるようになったのは、ここ20年のこと。2000年代初頭に、ちょうど富裕層、富裕層マーケティングということばが流行し始めました。もちろん日本には、それまでも富裕層と言うべき豊かな層が存在しましたが、そのように消費者の中のひとつのセグメントとして捉えられていなかったのです。

  これは戦後のモノが何も無くなった時代に、国中に広くあまねくモノやサービスを行きわたらせようという強烈なエネルギーが働いたためだと思われます。みんなで豊かになろうという雰囲気の中で、一部の豊かな人だけに役に立つものやサービスを声高にアピールするのは憚られました。広く一般の人の生活向上に貢献するもの、均質で少しでも上質なものが量産され、それまでは一般の人が高価で買えなかったような物も、安く量産され、誰もが買えるようになりました。

  サービスも同様です。たとえばレストランなど飲食店でも、セントラルキッチンで量産して各店舗に配送するという食のシステム化によって、美味しさは標準化され、安価になりました。大枚を叩かなくても、そこそこ美味しいものが、日本中どこでも食べられるようになりました。

  2000年代以来の富裕層マーケット狙いは、そういう量産と均質化によって「標準化された上質」への反動として始まったのではないでしょうか。富裕層=お金持ちはみんなと一緒では納得しません。お金持ちだからこそ所有している、人とは違った「しるし」を必要としています。そのニーズに応えるべく、たとえ値は張ってもみんなとは一緒でない上質感を持った商品を、注意深く、少しずつつくっては市場に投入していく、富裕層マーケットが見出されました。

  では富裕層を対象とした「富裕層ビジネス」にはどんなものがあるのか。 ざっと挙げただけで以下のようなものがあります。

・富裕層メディア
・コンシェルジュクラブ
・会員制クラブ(ゴルフクラブ、ビジネスクラブ、スポーツクラブ)
・クレジットカード(各社プラチナカード、ブラックカード)
・金融サービス(プライベート・バンキングなど)
・高級不動産販売
・高級住宅サービス(建築家による設計、インテリアデザイナーによるデザイン)
・小売(高級ブティック、高級百貨店、高級家具店、ギャラリー)
・オークション(サザビーズ、クリスティーズなど海外のオークション会社のジャパン)
・メーカー(ラグジュアリーブランド、ジェット、ヘリコプター、高級バスタブ、プール他)
・高級旅行(旅行会社の高級ツアー)
・高級レストラン・料亭などその他サービス

  すべて紹介していると、長くなりすぎますので、この富裕層ビジネスのストーリーは、
第1回 メディア・コンシェルジュ編
第2回 金融・不動産編
第3回 メーカーズ編
第4回 その他サービス編
の4回に分けようと思います。

  というわけで第1回はメディア・コンシェルジュ編です。

  富裕層ビジネスでいきなりメディアと言われてもピンと来ない方も、いらっしゃるかもしれません。しかし、先程富裕層という言葉は2000年代に始まったと言いましたが、ちょうど富裕層に向けたメディアが創刊されたのもこの時期と重なります。つまり、富裕層という言葉も、富裕層向けビジネスも富裕層向けメディアに乗って広まっていってもいいと思うのです。

  富裕層メディアとしてはSEVEN SEAS、SEVEN HILLS、NILE’S NILEPAVONEなどが雑誌、WEBマガジンをスタートしました。(※SEVEN SEASは1990年代から発行)。いずれも当時公示されていた高額納税者リストや著名人、セレブリティ、会社社長宛に雑誌をダイレクト送付。また書店販売を行うものもありました。富裕層メディアでは高級商材の情報を広告掲載し、読者を招いたイベントを開催して、富裕層の組織化を図りました。

  しかし、こうした富裕層メディアの興隆した時期は、ちょうどネットによるコミュニケーションが浸透し、印刷文化が衰退していく時期でもありました。このため、雑誌広告が収入の柱であったこれらメディアは、やがて消えていくか勢いを失っていきました。では代わりにネット専業の富裕層メディアが台頭したかというと、そうでもありません。むしろかつての「富裕層誌」のコンテンツはいま、市販の書店流通雑誌、たとえばForbes、RAKE、GENROKU、Richess・・・などの中にあり、それぞれにビジネスや金融サービス・高級不動産、ハイファッション、ハイラグジュアリーカーなどの情報を伝えています。

  また富裕層ビジネスを営む企業自身がオウンドメディアで情報発信したり、メディアを経由せずに、小規模で限られた顧客だけを招いたイベントで情報発信するなど、イベントがメディア化していたり、富裕層自身がSNSから情報発信して伝搬されていたり、と複雑に進化しています。今や1億総フォトジャーナリストの時代。誰もがメディアですので、ネット上では小規模の、限られたサークルにしか見ることのできない富裕層メディアが林立していると言っていいでしょう。

  会員制クラブやコンシェルジュクラブも富裕層メディアに近い存在です。かつて赤坂のカナダ大使館地下にシティクラブ・オブ・東京という富裕層クラブがありました。誰もが知る著名人、セレブリティ、外資系企業社長を始めとする富裕層が会員となっていて、よく恵比寿のウェスティンホテル地下にあるギャラクシールームで盛大なパーティを開いていたものです。同様の会員制クラブではアークヒルズクラブ、六本木ヒルズクラブが今も富裕層を会員としているほか、皇族や政財界VIPが会員に名を連ね、おそらく日本一敷居の高い東京倶楽部があります。

  コンシェルジュクラブやコンシェルジュという言葉が一般化したのも、富裕層メディアが出てきた同じ2000年代です。クラブ・コンシェルジュは会員制雑誌メディアの形態をとりながら、敷居の高い一見さんお断りの飲食店へのアクセスなどのコンシェルジュサービスの提供を今も続けています。ロンドンがベースで、マドンナやミック・ジャガーなど世界のセレブや某国国王も会員となっていると言われるQUINTESSENTIALLYも、ロンドンや香港などと連携しながら、日本を含む世界の富裕層向けに限られたコンシェルジュサービスを提供しています。

  また、このジャンルではクレジットカードのプラチナ、ブラックカードなどの上位会員組織も、本人に帰属意識があるかどうかは別として、富裕層会員組織であり、会員誌メディアで情報発信しながら、高度なコンシェルジュサービスを提供しています。



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