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ピカソもポルシェも買いました。次はスタインウェイ!?

NOBLE STATE NEWS 2016.07.13

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 スタインウェイのことを知ったのは中学生の時。友人で開業医の息子だったI君のうちの応接間に、まるで美術品のような、ナチュラルな木目のグランドピアノが置いてあって、世の中にはこんなに美しいピアノがあるのかと大いに感動したものです。

 最近ニューヨークタイムズに中国でのスタインウェイ販売について、面白い記事が出ていたので、すこしここでご紹介したいと思います。とても長い記事なので、少しかいつまんでお話します。

 スタインウェイは1853年、ニューヨーク・マンハッタンの倉庫で誕生したピアノメーカー。ドイツ系移民のヘンリー・E・スタインウェイ氏の名がそのまま社名になっています。このハンドメイドの超高級ピアノは150年以上にわたって愛され続けてきたわけですが、本国アメリカやヨーロッパなど西洋では、ピアノ人口は年々減少しており、苦境に耐えられず3年前に会社を売却しています。

 これを買収したのは伝説の投資家で、2007年単年度で150億ドルという人類史上初と言われる利益をたたき出したジョン・ポールソン氏です(ポールソン氏については『史上最大のボロ儲け』というなんともなタイトルで本まで出ています)。ポールソン氏は自分でもアマチュアながらピアノを嗜み、スタインウェイを3台所有しているということです。

 しかしスタインウェイを使う演奏家たちは当初、ポールソン氏が利益至上主義に走り、モノ作りにまで口を挟んでくるのではないかと心配しました。年間2000台という少量生産で、ハンドメイドされているこのピアノのテイストが壊されしまうのではないかと考えたのです。結果、その心配は杞憂に終わり、ポールソン氏は製造部門には手を付けず、販売先として新興市場の開拓に力を入れる道を選びました。

  となれば中国です。なんといっても人口が違います。ピアノを習う生徒さんの数はアメリカで600万人。これに対して中国は4000万人だそうです。と言っても皆が買えるような値段ではありませんが。なにせ1台2000万円しますので。

  では中国では誰が買っているのかというと、たとえば不動産王やIT系成功者だそうです。ピカソもポルシェも買いました。次は何を買う?というときにステータスシンボルとして。つまり、スタインウェイは楽器なんですが、美術品でもある、ハイブリッドな商品なんですね。

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 中国でスタインウェイの販売はここ10年、平均15%以上伸びているそうです。これに対してアメリカ、ヨーロッパは一桁成長。まぎれもなく世界で最も重要な市場になったというわけです。来年には上海に1万7千坪のアジア本社が建設予定だといいます。

 米国の大学で経済学とピアノを学んだ26歳の劉さんは、いまファミリービジネスとしてスタインウェイの販売会社を経営しています。実は劉さんの父親はすでに10年ほど前に中国でスタインウェイの販売をしていました。が、そのときは、うまくいかなかったようです。しかし劉さんには勝算がありました。中国のニューリッチは、新しい<富のシンボル>としてこういうピアノを買うだろう、と。

 劉さんは、中国におけるスタインウェイの最も熱狂的ファンでIT長者の王さんに相談し、王さんが所有するビルの1階に店を出すことにしました。王さんはスポーツカーや高級腕時計も好きですが、最近の買い物でいちばんの自慢は3000万円以上したスタインウェイのコンサートグランドピアノという人です。「なにか特別なものが欲しかったんです。ロールス・ロイスみたいな」と王さんは言ったそうです。

 そして劉さんは周到に準備をしてお店をオープンするのですが、最初は苦戦したそうです。自身がピアニストでもある劉さんは、どうしても音楽の話でセールストークを組み立ててしまい、投資価値としてのアピールができなかったようなのです。ハイエンドな楽器というのは、スポーツカーや高級腕時計みたいなラグジュアリー商品としてのわかりやすさが無いのですね。

 劉さんは富裕層顧客にそういう資産価値をアピールするため、ベントレーから営業マンをスカウトして雇います。そして念願の1台目が成約。しかしそれは少々変わったお客様でした。ある日の朝かかってきた電話で、この富裕層の女性は2000万円のピアノを1台注文。ところが条件があってその当日の夜8時きっかりに納品してほしいというのです。理由を尋ねると彼女が師と仰ぐ風水師がその時間がよいとアドバイスしたんだとか。さすが中国の富裕層です。納入の時間まで風水で決めるとは。

 中国にはいま30万台の電子ピアノとおよそ同数のアコースティックピアノがあるそうです。そして5年以内にこの合計は100万台を超えると予測されています。でもデジタルピアノとこういう高級アコースティックピアノは競合しないのでしょうか?スマートフォンやタブレットと連動して演奏できるスマートピアノで人気の『The One』のメーカーは北京に本社があります。スタインウェイではこれまで、こういうデジタルの世界とは競合しない、とずっと無視し続けてきました。しかし今月、スタインウェイは、163年の歴史ではじめてとなるデジタルの世界に踏み出しました。iPadで制御する自動演奏ピアノ『Spirio』を発売したのです。

 この自動演奏ピアノのコンセプトは、20世紀初頭にアメリカでつくられたものにルーツがあるといいます。そして、その当時スタインウェイはいまの3倍、6000台を年間生産していたそうです。しかし中国で今の勢いで富裕層たちがスタインウェイを買い続ければ、もしかすると、またそれくらいの数に近づいてくるかもしれません。いま中国でスタンウェイは「ブランドピアノ」として、すっかり知名度があがり、偽物まで出回るようになっているそうです。



参照サイト: The New York Times

cover photo: Godon Tarpley “Steinway Pianos Modeled in 3d studio max”

photo#2: Bruno Sanchez-AndradeNuno “Picasso”
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