薔薇ノート復活

Mimi 2020.07.28
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A rose is a rose is a rose.
ガートルード・スタインは、何と短い言葉で薔薇の本質を言い当てたのだろう。
The Oxford Dictionary of Quotations(Second Edition)を見ても、200程もroseやrosesに関する項目があるのに、薔薇と並び称されるorchid(蘭)はというと、ゼロである。そういえば、俳句の世界でも、薔薇は春の季語、蘭に季語はない。

花の中でも薔薇はやっぱり別格だと思う。多分、子供の頃、庭に一つ咲いただけでもわくわくする薔薇の魔法を実感したせいかもしれない。

薔薇に関する詩で一番好きなのは、ロバート・バーンズの詩だ。書き出しは次のようだ。

O my Luve’s like a red, red rose
That’s newly sprung in June:

自分の愛する人を、六月に初咲した赤い薔薇に例えている。愛する人をLuveというスコットランドなまりで表すことにより、また、その軽快なリズムで、詩人の素朴な高揚感が伝わってくる。


自分で土を挽いて、自分で育てた薔薇を描き、バーンズの詩を書いた、世界で1枚のお皿。


日本の花屋の薔薇には香りの良い薔薇が少ない。どうしても薔薇の香りを楽しみたくて栽培を始めたのは20年以上前だ。ノートを用意して、左のページには薔薇の種類や購入時期や場所、どんな花が咲くか、毎年いつ初めて咲いたかなどを記入し、右のページには、薔薇の写真つきのラベルや、自分で撮った写真を貼った。

メモワール、ミニュエット、マルコ・ポーロ、聖火、ステファニー・ド・モナコ、レイディ・ライク、コンパッショネート、ノスタルジー、ピエール・ド・ロンサール、ブルー・リバー、セント・スウィザン、エヴリン、桜霞、ラヴリー・フェアリー、アンジェラ、スワニー、プリンセス・ド・モナコ、リトル・ホワイトペット、イヴォンヌ・ラビエ、パット・オースティン、ノーフォーク、コーネリア、フェリシア、シャルル・ド・ゴール、アウェイクニング、ヴィレッジ・メイド・・・・。

ここまで書いても、ノートの最初の方の薔薇の名に過ぎない。ノートの薔薇が全部生きていたら大変な数になっていただろう。

ノートを見返してみると、どのページにも大きく斜線が引かれている。薔薇の最期の様子を書いた後引いた線だ。多くの薔薇に、「癌腫病により廃棄」と書いてある。

その頃、私が参考にしていた薔薇の本には、根に瘤が出来る癌腫病は恐ろしい病気で、伝染するから、見つけ次第、苗を焼却処分にしろと書いてあった。土を安心な農家から取り寄せて、新しく変えても、薔薇は次々癌腫病にかかった。病気にも関わらず美しく咲いている薔薇を処分するのは、心が痛んだ。

それでも、生き残った薔薇のシーズン、ああ、明日には満開に咲くわね、とたくさんの膨らんだつぼみにワクワクしていると、突然ひとつ残らずつぼみがぽろっと落ちる現象が起こった。茎に針を刺す虫の仕業だ。そんなことが二年続きで起きた。

専門家に相談したら、庭にずっといて、虫を追い払え、飛んでくる虫を防除するにはそれしかないとのこと。そんなのとっても無理、と私は薔薇栽培をあきらめてしまい、放置された薔薇は消失してしまった。

そして私のところに残ったのは薔薇の過去帳であるノート一冊。度々の殺菌、肥料の手作り、剪定に土替え、マルチング、膨大なエネルギーを費やしたバラ栽培の思い出が詰まっている。

薔薇栽培なんてもうこりごりと思っていたのに、たまたま五月、練馬農協で美しく香りの良い薔薇を見つけ、つい買ってしまった。ブルー・パヒュームという。コロナが怖くて、日本橋三越屋上のチェルシーガーデンにさえも出かけられない寂しさが、一挙に解消。

それから、ネットで「バラの家」という店を見つけ注文したら、つぼみ一杯の元気な苗が届いた。癌腫病にかかりにくい台木を使っているという。今では、無農薬でも育てられるような薔薇の新種が出てきているのもカタログで知った。その一つ、「トロイメライ」は、難易度別の数字で最低の「0」(ゼロ)だ。これなら、虫さえ気を付ければ育てられそう。こうして私のバラ栽培が再開した。薔薇ノートも引っ張り出され、十数年ぶりに新しい項目が記入されるようになった。以前大好きだった香りの良い薔薇ももう一度買い直した。マダム・ピエール・オジェとイヴ・ピアッチェ。薔薇それぞれの特徴を見ながら、大切に育てよう。


バラの家のカタログと、薔薇ノート


トロイメライ—-難易度ゼロの薔薇。でも美しく、香りも良い。


今、私は、暇さえあればベランダに出て薔薇を慈しんでいる。小さな平和な世界・・・。それぞれ個性あふれる生育で、花も香りも独特だ。ふとウィリアム・ブレイクの詩が蘇る。
To see a World in a Grain of Sand.
一粒の砂に世界を見たブレイクのように、私もこの小さなベランダで、自然界と共感し、
広い世界、そして宇宙を見る。


グレイス


ボレロ


セントスウイザン


ローズ・ポンパドール


エドゥアール・マネ


桜霞


朝食のブルスケッタ。モデナのバルサミコ酢と、朝咲いた薔薇、シェエラザードを添えて。


ブルー・パヒューム
薔薇栽培再開のきっかけになった薔薇。

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