逆境は粛々と受け入れよう
―「星野リゾート青森屋」に泊まって

Mimi 2019.04.17
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 三月末、私はマルタを旅していた。ホテルで久しぶりにメールボックスを開いてみると、JALからのメール。大抵飛行機会社からのメールは無視してしまうのだが、ふと開いてみると、3月31日にマイレージが失効するとのこと。あと、2日しかない。

 気楽に商品欄を見ると、「どこかにマイル」というのが目に飛び込んできた。「行き先がどこになるかはお楽しみ!」「日本各地に眠る美しい風景や豊かな文化にきっと出会えます」と書いてある。いわゆるミステリーツアーのようなもので、JALが示す4つの行き先のどこかへの往復航空券が手に入る。

 4つの行き先とは、熊本、徳島、宇部、そして三沢。三沢は寒くていやだなあ。三沢以外の他の3つだったらどこでもいいや、なんて考えて気楽に申し込んだ。ところが、翌日届いた決定メールに書いてある行き先は、何と三沢!三沢だけは行きたくないと思っていた三沢!

 でも、逆境から立ち直るのが早い私は、これを神様のおぼしめしかもしれないと考えることにした。三沢って基地しか思い当たらないけれど。 そこで、ホテルを検索したら、星野リゾート青森屋があるではないか。星野リゾートなら、何等かの手段で宿泊者を楽しませてくれるに違いない。HPを見ると、22万坪もの敷地に公園まであるらしい。

 早速週末の金、土の2泊を予約。三沢空港からの送迎も頼む。わくわくしてきた。おととしロシアに行った時に買った極暖というパンツを引っ張りだし、暖かいセーターもしっかり鞄に詰める。

 16:55羽田発。ジュースが配られ、そのコップが回収されたかと思ったら、もう機長から降下開始のアナウンス。えっ、もう着いちゃうの?18:05三沢空港着。なんと1時間ちょっとで着くのだ。

 星野リゾートという札を持った人がお迎えに来ていると聞いていた。ところが・・・!お迎えがいない!ただでさえ閑散とした空港には、私ひとり。薄着の私は寒さに震える。何かの手違い?星野リゾートに電話すれば、すぐに迎えをよこしてくれるに違いない。

 星野リゾートに電話。ところが、電話を受けた人は、「お待ちください、確認しております」と言うばかりで、延々と待たされる。何度も「ここは寒いから早くして」と言うのだが、「お待ちください。確認を」の1点張り。うんざりするくらい待たされたあげくに、ようやく電話が繋がったと思ったら、「こちらから電話しますので、いったん電話を切ってお待ちください」ですって! 意地悪なのか? そして、また待たされる。待ち続けたあげくついに電話が来た。何の確認か分からないが、確認が取れたと言う。空港にいるタクシーに乗って来てください。タクシー代はホテルが支払います。とのこと。

 ここまでの経緯を、大学で観光学を教えている友人に話したら、びっくりしていた。泊まり客が、お迎えが来ないと空港から電話したら、とりあえずはすぐにタクシーに乗って来てください、とホテル側が言うのが当然の対応だという。大体、なんで泊り客の確認がすぐに出来ないのか?

 タクシーに飛び乗った。運転手さんは、私の苦境に同情しながらも、「青森屋」に泊まりに来た人は皆さん満足して帰りますから、お客さんもきっと満足して帰られますよ、なんて言ってくれたが、私の場合とても無理、と答えた。

  青森屋の前では、男性が待ち構えていた。予約支配人だという。お迎えの予約を受けた人が、それをメモしておきながら、コンピューターの入力を忘れたのだそうだ。青森屋の完全なミスなので、お詫びにお部屋をグレードアップしてくれると言う。

 その部屋だが、寒いし、お風呂に行くのにも、バスタオルはあってもウォッシュタオルもないし、歯ブラシも持参のを使った。外国のホテルではウォッシュタオルや歯ブラシがないところはたくさんあるので、多分青森屋もそうなんだろう、と思っていた。

 だが、後でわかったことだが、洗面道具一式が入った紺色の袋が配られていて、それが暗いクローゼットの奥の方にヒッソリと置かれていたのだ。私は知らずに鞄をどんとその前に置いてしまい、気づかなかった。寒い室内に関しては、格子で隠されたところにストーブがあって、それのスィッチを自分で入れなければならないのだ。帰る前日にそういうことがすべて分かった。

 私だったら、初めての人を部屋に案内する時には、ここに洗面道具がありますから、とか、暖房器はここにあって、スィッチはここですよ、と教えてあげるけどな。星野リゾートっておもてなしのプロだと思っていたのに・・・。 ここまで読んだ人は、私が期待を裏切られて最悪の週末を過ごしたと思うだろう。だが、そうでもないのだ。

  まず、2日間とも極上のお天気だった。極暖パンツは役に立ったが、お日様はニコニコと照る。広い池の周りをぐるりと周遊コースがある公園は植栽が手入れされていてきれいだ。おまけに、ポニーと馬が2頭ずついる。ポニーも馬もじっくり見たことがなかったので、その一挙一動が珍しく、夢中になってしまった。ポニーは日がな一日干し草を食べているか、ゴロンと寝ているかの人生だなんて知らなかった。




公園の真ん中にある池

    




池の周囲には、日本の古民家が建っている

 




ポニーは干し草を食べているか、寝ているかのどちらかの人生





  馬の目玉はつるんとした半円球をしていて、あたりの景色が映っている。草しか食べていないのに、どうして筋肉隆々なのだ!バイオリンの弓でしか見たことがない尻尾は、いろいろな色の毛が混じっている。弓の毛は漂白されているのかな?




黒い馬と栗毛の馬






馬の目に
映る地球や
風光る






 

春の野を
目玉に映し
馬立ちぬ






春光や
滑らかに馬の
背撫でる





  私は、スケッチブックが一冊一杯になってしまうくらいまで、ポニーや馬、景色の絵を描くことが出来た。ずっとポニーや馬と一緒にいて、話かけながらスケッチしたので、何か心の交流のようなものが出来たような気がする。




二頭の仲良しポニーと栗毛の馬をスケッチ

   



 さて、行きのタクシーの運転手さんが、青森屋の泊り客が皆満足して帰ると言った時、私は、「まっさかー!わたしの場合は違う」と思ったものだ。もう三沢に来ることなんて一生涯ないだろうとも。でも、帰りの機中、「今度行く時には人参を持って行こう。無農薬のをね」なんて考えている自分がいた。





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